トーマ「ボクには勝ち負けすらどうでもいいのです。キミの心を救いたいだけなのです」
トーマの動きの質が変わる。
アナウンサー「あーっと?トーマのこの動きは…?まるでダンスをしているかのようだ!信じられない!このリングで何かを表現しているのか?」
トーマがこれまで見てきたナルシマリョウの心の闇を、まるでリョウそのものであるかのように観客に、視聴者に、そして何よりナルシマリョウにダンスで見せつける。
戦いながらダンスを踊るトーマにリョウは一撃も当てることが出来ない。
それを見た全ての者がナルシマリョウの悲しみ、苦しみ、痛みを知り、落涙する。
リョウ自身でさえ言語化することが不可能だった自分の気持ちを見せられたリョウは動揺する。
トーマ「これでやっとキミを理解することが出来ました、次はキミを救う番です」
スパーリングパートナーから会得した柔道・柔術・サンボ・合気を駆使しながらトーマがリョウを攻め立てる。
リョウもこれまで身につけてきた技を十二分に活用しながら対抗する。
ラストラウンド、天才と言われたトーマにどうしても決定打を当てることが出来ず、このままでは判定で負けてしまうと焦り、技が雑になっていくリョウ。
その時、空手の師匠であり、敵のトーマ側についていたハズの黒川がリョウに
黒川「リョウ!何だそのザマは!ワシが教えた空手はそんなモンじゃなかったぞ!」
と檄を飛ばす。
リョウ「やかましい、クソジジイ!今は敵じゃなかったのかよ!」
猛攻を仕掛け、リョウが最後の正拳を見舞おうとした瞬間、笑みを浮かべ、両手を広げるトーマ。
そのままリョウの攻撃をもろに顔面に食らい、まるでキリストのように十字に倒れ、そのまま試合終了。
リョウ「テメェ、ワザと避けなかったな!」
トーマ「言ったでしょう、ボクはキミを救いたいのだと。それにもう避けられないと分かったからね」
と呟く。
リョウの表情はもはや少年Aやナルシマリョウのそれではなく、成嶋亮という一個人に戻っていたのであった。
トーマはこの試合後、ダンスに復帰。神を宿すと言われたそのダンスに、人間の性(サガ)ともいうべき生々しさの要素も加わり、さらに世界的な評価を受ける。
時は流れ、故黒川師匠の空手を継ぎ、道場で弟子に空手を教えていた成嶋涼。
そこに空手着を着た一人の男がやってくる。
彼を見た成嶋涼が「待っていたぞ!」とニヤリと微笑んで、完。
作者もトーマをラスボスにしたかったはずなのに、尺の都合か、編集の意図か、キャラが言う事を聞かなかったからか、中途半端になってしまった感があったんで、これでいいんじゃないかな。