先日、母親と叔父の三回忌に向かう途中、某人気戦国武将を祀る神社近くのコンビニに寄った。
もっとも、神社に用があったわけではなく、ただ小雨が降り始めたので、念のためにビニル傘を買おうとしていただけだった。
イケメン武将を祀る神社の前には、歴女ないし腐女子的な女性が散見され、殿様のお陰で地元経済が潤っていているな、と実感する。
傘を買い終わり、ふと道を挟んだバス停に目をやると、冴えない容貌の若い男女の姿が目に入った。
典型的なオタクルックで痩せぎすな男と、似たような服装の肥満体の女。この女性は歴女か腐女子だろうか。
最初は他人同士かと思ったが、互いに談笑する様子を見ると友人同士かもしれない。
いや、女性が口をつけたペットボトルを男性にも勧めていたので、どうやら恋人同士のようだ。
自分はそろそろ40歳近いが、結婚どころか交際の経験すらない。若い頃は悩むこともあったが、最近は悩むことすら少なくなった。
だから、失礼な言い方ではあるが、お世辞にも見てくれが良いとはいえない男女が仲良さそうに談笑をしている様を見て、
何年かぶりに嫉妬、あるいは劣等感のような感覚を覚えたことは間違いない。なぜあいつらに出来て、俺はダメだったんだ?
かつての俺は努力はした。外見も磨いた。色んな手を尽くして出会いを求めた。だが、誰ひとりデートの誘いすら承諾してくれなかった。
誘いを断ったある女性に、思い余って理由を尋ねたことがある。もううんざり、と吐き捨てるような声で答えられた。
「魅力を感じないんです、人として」。 そこで心が折れた。すべて諦めた。
女性が去った後、自分は地べたに這いつくばって、駄々をこねる幼児のように泣いた。誰もいなかったのが不幸中の幸いだった。
ほどなく、そんな劣等感を笑い飛ばそうと、からかい半分に母親につぶやいた。「ほら、あんな見た目の悪い連中でも、恋愛しているんだね」。
母は答えた。「そうね。『為せば成る』のよね」。人差し指が遠くにかすかに見える「毘」の文字を指していた。
自分はその指先を見ないふりして、無言で歩き出した。