2016-05-20

格ゲー相手絶対に負けない方法を知ってるか?」

当時同級生だったナイジェル(本名吉村。純日本人だ。)は相手ガイルが放ったソニックブーム波動拳相殺しながらそう言った。

ゲームセンターに対戦台といわれる背中合わせに並ぶ2台で同じゲームを楽しむ仕組みが取り入れられ始めた頃のことだ。

相手ガイル遠距離ソニックブームを連打し、近づけば中足払いで牽制するというスタイルを徹底していた。

リュウ竜巻旋風脚ソニックブーム対策になる前では、せいぜい中足払いに大足払いを当てに行って、ダメージで優位をとるのが関の山だった。

ナイジェルはガイル鉄壁を崩せず、すでに10試合近く負け続けていた。

相殺された波動拳の隙にガイルの裏拳がめり込む。

最終ラウンド、すでに絶望的な体力差だ。

「そんなの知らねぇよ。それともまさかリュウ真空投げでもできるっていうのか?」

しかしたら当時噂になっていたリュウ真空投げをナイジェルは知っているのではないだろうか。

隣にあるすでに誰もやらなくなったようなパズルゲーム腰掛けていた僕は、ギャラリー視線を気にしながらそんな淡い期待を胸に言葉を返した。

「いいか見てろよ。」

何かを心に決めたように真剣な目をしてナイジェルは続ける。

「それはな、、、」

画面上のリュウがバックジャンプして距離を取ると、おもむろに竜巻旋風脚を放った。

ガイルはそれを対処しようと冷静にしゃがんだ姿勢を維持している。

僕の目は次に起こる出来事を見逃さないようにと画面に釘付けになる。

しかし、そんな僕の期待を裏切るようにナイジェルは叫んだ。

ゲームなんてルールの中で戦わないことだ!!」

突如として椅子を蹴り立ち上がるナイジェル。呆気にとられる僕を背に対戦台の反対側めがけて走りだした。

ナイジェルは無類のゲーム好きだが、じつは柔道の有段者で部のエースでもある。

腹がたったのはわかるが暴力沙汰はまずい。学校帰りにゲーセンいたことが発覚すれば僕の問題にもなるのだ。

吉村!」

僕は焦って立ち上がり筐体の影に消えたナイジェルの姿を追った。

しかし、そこにナイジェルの姿はなく、無防備になったリュウ叫び声だけが悲しく響いた。

なるほど。

ナイジェルは負けなかったのだ。

なぜなら負けが確定するより先に逃げたのだから

この翌日から和風な顔立ちの彼はナイジェル(Nigel)と呼ばれるようになった。

その理由を彼はまだ知らない。

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