小学校低学年の時、転校生の女子を他の女子より胸が発達しているという理由だけで好きになった。しかし、その女子よりも胸が大きくなって、かつ男子からの人気も高かった子には全く惹かれる事が無かった。それは彼女の体臭が好きだったからである。第一印象こそ胸に惹かれたものの、同じクラスで過ごす内私は彼女の体臭が他の女子と明らかに異なる事を発見した。私はこの匂いを大変好んだが、他の同級生はそう思わなかったようである。
それは雑談の中でその女子の話題になった時だ。「変な匂いするから嫌だ」と一様に言うのである。確かに癖のある匂いだったが、一方でずっと嗅いていたくなる匂いだというのが私の認識だったので、衝撃を受けた。
この時私は、同級生にその女子の匂いの良さについて講釈したい衝動にかられた。何故ならあの匂いを否定するという事は、シャンプーの残り香や香水の匂いといった、牙を抜かれた人工の匂いに騙される事を肯定している物としか思えなかったからだ。今では強烈な香りだったという事しか覚えていないが、何にも例えようのない正に「彼女その物の匂い」という風にしか俺には思えなかった。
そんな訳で俺は同級生には見る目が無いと見下していたのだが、一方でこの事は他に恋敵がいる可能性が極めて低い事を表していた。おまけに「その女子は性格が悪い」という噂すら耳にした。今まで彼女のスクールカーストは高い物だと思って来たが、案外そうではなく揺らぎ始めているかもしれない。だとしたらそれはチャンスなのだ。彼女を庇い、褒め千切れば物に出来る可能性がある。
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などという事を考えるまでも無く、既に彼女には嫌われていた。「好きな子には悪戯したくなる」という小学生特有の糞行動に走ってしまったのだ。
これを大いに反省した私は、煩悩を滅却する為中学から男子校に入った。女子との出会いの機会が激減したのもあって、彼女を越える匂いの保持者にはついぞ出会えず、消える事も燃える事も無い想いを未だ引きずっている。どうせ二度と出会える機会も無いし、仮に出会えたとして印象を回復させる事も出来ないだろうが、あの匂いだけはもう一度嗅ぎたい。思えば私は地下駅の匂いや、地下鉄用の古い車両の癖のある匂いも好きだが余り同意を得られていない。癖のある匂いが昔から好きで、それが女子だったら最高なのだ。そして一晩中その子の匂いを嗅いで過ごせたなら私はその時死んだって良い。