2022-09-13

チャージされた残高

キャッシュレス決済アプリの残高が心もとない程度の金額だったため、仕事前にコンビニへ立ち寄った

こういう時に銀行口座クレジットカードとの連携操作を面倒くさがって疎かにした自分に腹が立つもの

コンビニに着くと2台設置されたATMに4名の先客が列を作っていた

いつもならここで店を出て別のコンビニへと向かうのだが、時間に若干の余裕があったため雑誌立ち読みながらATMが空くのを待った

適当雑誌を手に取りペラペラとめくる

そういえば紙の雑誌は久しぶりに触ったような気がするなと思いながらATMの方向を見ると、並びは2名まで減っていた

耳をそば立てながら目は再び誌面に落とす

紙幣カウントする動作音のあと、現金が出てくる際の軽快な電子音が聞こえた

そろそろ列に並ぼうかと雑誌を棚に戻し、スマホATMチャージ画面を開きながら残り1名まで減った待機の列に並んだ

その時、「コンコンコンコンコン」とノックのような音が聞こえた

のした方向に目を向けると、先ほどまで自分が本を立ち読んでいた場所ガラスを隔てた外に、少しつばが大きい帽子を被った女性ガラスを叩いていた

学生時代に付き合っていた彼女だった

ダラダラと過ごしていた学生時代、やる気のない日々を埋めるように酒を飲み笑い合い肌を重ねる生活半年ほどともにした

ある日、「新しい夢ができた。迷惑をかけるかもしれないから、これでおしまい」とかなり意味深な別れ言葉を残して消えた

目標もなくなんとなくその日を暮らしていた自分にはない将来のビジョンを見つけたのか、それともほかにいい男を見つけたのか、突然の別れに3週間は悲しんだ記憶がある

ガラス越しに目が会うとあの頃と同じ屈託のない笑顔でニパッと笑った

釣られてこちらもニコッと応じたつもりがニヤッと気持ち悪い顔をしてしまった

その時、ATMの順番が来た

ガラス越しの彼女に「ちょっと待ってね」というジェスチャーをすると、彼女も何か察したように指でOKマークを作ってくれた

ATMの前に立ち操作をする

財布から紙幣を取り出し投入、明細を受け取り財布にねじ込みチャージされた残高を確認しながら店の外に出た

店を出てすぐ左を向くがすでに彼女の姿はなかった

想定外事態狼狽えてしまった

ちょっと待ってねに対してOKしてくれたと思っていたが、彼女がいたあたりで周囲を見回してみても影もない

あの日彼女が急に消えた時のことがフラッシュバックして涙がじんわりと浮かんできた

「やっぱり!」

懐かしい声と当時に背後から尻を鷲掴みにされた

振り返るとアイスコーヒーを片手にニパッと笑う彼女がいた

「お店の前を通った時に立ち読みしてるの見えてさー」

まるで頻繁に会っている友達のような距離感

「わー、さとちゃんだー!ってガラスコンコンしちゃった」

そういえば行動力ダダ漏れな子だった

「すぐ気づいてくれた?わかった?」

試すかのように顔を下から覗いてくる仕草も好きだったなと思い出した

結局その日は仕事休み彼女ランチに行った

あの日のことや新しい夢のことは結局聞けなかったが、左手右手で覆いいっせーのーでと薬指を見せ合い、お互い指輪がないことを笑い合った

食事が済み食後のコーヒーカップの底に少し残るほどになった頃、「じゃあそろそろ行こっか」と二人並んで席を立った

連絡先は変わってないかな、今どこあたりに住んでるのかな、夢は叶ったのかな、もう会えないのかな

聞きたいことや言いたいことが渦巻いて、それでもあと一歩踏み出せずに声にすることができなかった

会計へ向かいスマホ差し出すと、横では彼女も同じようにスマホを準備していたが、店員に「一緒でいいです」と告げ、朝にチャージした残高で支払った

「えへ、ありがと」とあの頃と変わらない仕草でお礼をいう彼女へ向けた笑顔はきっとぎこちなかっただろう

最近洗濯機を買い替えた

のものは容量が小さく乾燥機能がなかったから、雨が続くとコインランドリーへ行ったり部屋干しで臭いがついたりと大変だった

その洗濯機が「ピーピーピー」と洗濯終了の合図を出す

するとキッチンから「干すのお願いしてもいい〜?」と声が続く

もちろんそのつもりだと紙の雑誌を机に置き、洗濯機の蓋を開ける

湿った洗濯物を取り出しながら、白いネットを取り出す

彼女のブラはそのままで、私のブラだけはいつも洗濯ネットに入れてくれる

この優しさとズボラさのアンバランス気持ちがいい

そういえば未だにキャッシュレス決済アプリ銀行口座連携していなかった

あとで彼女に聞きながら設定しよう

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん