中学生のときすごく仲がいい奴でアキラってのがいて、放課後は毎日のようにそいつの家に遊びに行っていた。
毎日お邪魔してたから、アキラの母親ともかなり打ち解けてて、おやつはカントリーマアムをリクエストしたり生意気も言える関係だった。
二人で漫画読んだりゲームしたりギター競い合ったり、ありふれたことをして遊んでたんだけど、そのくらいの年頃って当然エロ的なものにも興味が芽生えてくるもので、しだいにクラスのあいつがエロいとか男子学生らしいバカなこともくっちゃべっていた。
いつのことだったかアキラが「おれは井田のこと気になるかな」と照れながらも打ち明けてくれた。
自分はアキラとはクラスが別だったが、井田という女子は自分と同じクラスのマドンナ的存在だった。
彼女はやはり抜群にルックスがよくなんとなく色気があって、彼女に思いを寄せている男子は多かったと思う。
幸運なことに自分が思いを寄せているのは別の人だったので、素直にアキラの恋を応援すると話した。
するとアキラは「だから、井田でオナニーとかやめろよな」と言ってきた。
もちろんそれは冗談めいたニュアンスで言った言葉で、彼なりの照れ隠しに聞こえなくもなかった。
けれどその一言で自分は少し動揺した。照れ隠しにしてはちょっとぶっとんでいる。
「しないよ。だいいち井田じゃ抜けないよ」
そんなことはないくらいに彼女は魅力的なのだが、思わず口から出てしまった。
「へえ。じゃ誰なら抜けるんだよ」
互いにひくにひけなくなったおれたちは、わけのわからないプライドに突き動かされていたのだが、ノリで無茶苦茶なことをやるのもなんだか単純に楽しかったような気がする。
そういうわけで、自分はアキラの家のトイレで自慰行為をすることになった。
人の家でちんぽをしごくという興奮だけで、オナネタなんて正直どうでもよかったのを覚えている。
今覚えば露出モノの背徳感が好きという自分の性癖は、ここが原点だったのかもしれない。
「マジばかだな」
「うるせーよ」
その後でアキラの母さんが手作りのパウンドケーキを持ってきたときは、たいそうドキドキした。
実は自分は、化粧のいい香りのするアキラの若い母親に少し憧れていた。恋愛感情というにはまだ届かないくらいであったように思うが。
いつもは気軽に冗談を言い合える関係なのに、その日は妙に意識してしまって受け答えがぎこちなくなってしまった。
しかしその日はいつも以上にアキラと仲良くなれた気がした。下ネタを通してより男の友情が深まったような気がしたのだ。
結局その日はそのままアキラの家に泊めてもらうことになった。
夜になってアキラの部屋でふたりでテレビを見ていたとき、アキラは昼間の猥談を蒸し返した。
「なあおまえさ誰でも抜けるって言ったじゃん」
「またその話かよ」
「ほんとバカだよなおまえは」
「うるせーな、案外そういうもんだろ」
「井田では無理なのに?」
「だから井田をそういう目では」
「じゃあさじゃあさ」
「なんだよ、また抜けとかいうのかよ」
「あのさ」
「うん」
「おれで抜いてくれよ」
見たことのない真剣な面持ちだった。
沈黙。
どうするべきかわからず、自分は思わず言葉を濁して部屋を出た。
扉を開けると、そこにはアキラの母さんが飲み物を持って立っていた。
顔には明らかに戸惑いの色があった。
脇を抜けようと足を進めると、
「トイレで」
予想外の大きな声に思わず立ち止まった。
「トイレで、何をするの!」
下世話な創作落語だな