2024-11-19

マッチョ売りの少女

寒い冬の夜、ひとりの少女街角に立っていました。

まだ10歳の彼女は、小さな肩をすぼめ、凍える指先を何度も擦り合わせて温めようとします。

クリスマス・イブの夜、雪がちらつく中、少女は持っているもの一生懸命売ろうとしていました。

その売り物は、なんと5人のマッチョたち。

マッチョはいりませんか…! マッチョはいりませんか…!」

誰も振り向くことなく、冷たい風とともに通り過ぎていく大人たち。

彼らの心には、クリスマスを祝う喜びや家族との時間けがあり、凍える少女の声など届きません。

それでも少女は、小さな声で売り声をあげ続けました。

実は、少女が売ろうとしているこの5人のマッチョたちは、数日前にサンタさんからもらったものでした。

彼女クリスマスに願ったのは「力」。

サンタさんは、彼女が困らないようにと、頼りになる筋骨隆々マッチョたちをプレゼントしてくれたのです。

しかし、そんなマッチョたちも、一緒にいるだけでは暖かくもなく、少女の腹を満たしてくれるわけではありません。

彼女は思いました。

「このマッチョたちを売れば、何か暖かい食べ物が買えるかもしれない。せめてクリスマスの夜、何かおいしいものを食べて、少しでも温まることができるかも…」

少女は懸命にマッチョたちを売ろうとしましたが、誰も興味を示してくれません。

5人のマッチョたちは、黙って彼女の後ろに立っていました。

肩を張り、腕を組み、寒空の下でもその筋肉がぴくぴくと動いています

「もう売れそうにないわ…」

そう呟き、少女は小さくため息をつきました。凍えそうな指でポケットを探りながら、次第に力が抜けていくのを感じます

けれども、何とかこのマッチョたちを売らなければ、自分の願いを叶えたサンタさんにも悪いし、何よりお腹が空いています

雪はさらに降り積もり、少女の体温は奪われていきました。

街の明かりは遠く、温かそうな家々の窓からは、クリスマスパーティーの楽しそうな声が聞こえてきます

「…ああ、暖かそう」

少女はふと、試しにマッチョをひとりだけ呼び出してみることにしました。

「せめて少しの間だけでも、暖かくなれたら…」

彼女がそう思い、手を軽く叩くと、ひとりのマッチョが前に出てきました。

どっしりとした足音が響き、筋肉が眩しい彼が少女の前に立ちます

「何か用かい?」と、低い声で問いかけるマッチョ

少女は小さく震えながら、彼を見上げました。

「少しだけ…温まることができないかな?」

マッチョはその言葉を聞いて、にっこりと笑いました。

そして、彼はぐっと力を込めて腕を大きく振り上げると、筋肉魔法が現れました。

突然、あたりはほんのりと暖かくなり、まるで暖炉の火の前にいるかのような温かさが少女を包みました。

「すごい…本当に暖かい…!」

少女は驚きました。

彼が作り出した筋肉の力は、凍えた体をしっかりと包み込んでくれたのです。

「でも、この温かさも永遠には続かないわよね…」

少女はふとそう思い、次のマッチョを呼び出しました。

彼もまた、強くたくましい体つきで少女に力を貸してくれました。

今度は、目の前にパンプアップされた筋肉たちが現れ、それは少女の体を守るように壁のように立ちはだかりました。

冷たい風が完全に遮られ、雪が吹き付けることもなくなります

「これで風も防げた…」

そう言いながらも、彼女の心はまだ満たされませんでした。

「でもお腹は空いたなぁ…」

そこで、少女はもうひとりのマッチョを呼び出しました。

彼は立派な体格でありながら、優しい笑顔を持つマッチョでした。

お腹が空いたのか?」と彼が尋ねると、少女は小さく頷きました。

「そうなの…少しでも食べ物が欲しいわ…」

その瞬間、マッチョは力強い腕でどこから筋肉料理を作り出しました。

プロテイン満載の特製バーガーが現れ、それを少女差しします。

少女は驚きつつも、勢いよく食べました。

「美味しい…! でも、これで最後マッチョを使ったら、もうどうしようもないかも…」

少女は悩みました。

マッチョをすべて使い切ってしまえば、もう彼らを売ることもできず、この先どうなるか分かりません。

けれども、今の暖かさと満足感が一瞬でも消えてしまうのは、彼女には耐えられませんでした。

最後のひとり…お願い…」

彼女が力なく呟くと、最後マッチョが前に出てきました。

今度は、これまでのマッチョとは違い、特別な力を持つマッチョです。

彼は少女の前に立つと、優しい声で言いました。

「君の願いは、何だい?」

「…願い?」

「そうさ。君の本当の願いは、何かい?」

少女はその言葉を聞き、少し考えました。

自分が望んでいるのは、ただ温かさや食べ物ではない、もっと深いものがあることに気が付きました。

「私…もっと強くなりたい…」

その瞬間、最後マッチョが嬉しそうに大きく頷きました。

そして彼の筋肉が輝き出し、彼女の体に力が注がれました。

温かさと力が同時に少女を包み込み、彼女自分が強く、たくましくなっていくのを感じました。

「ああ、これが本当の力…!」

少女は喜びの声をあげました。

少女は再び一人になってしまいましたが、今度は不思議と寂しさを感じませんでした。

そして、その夜、少女は一人星空を見上げながら、静かに「ありがとう」と呟いた。

マッチョたちはいなくなったけれど、心には温かいものが残っていたのです。

めでたし。めでたし。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん