俺が仕事に行ってる間の家事を毎日こなしてくれている事にもいつも感謝している。
あなたには一生幸せで苦労のない暮らしをさせてあげたいと思っているし、そのためならいくらでも何歳まででも、例えばこの先歳をとってどんなに身体がこわれようとも働けると本気で思っている。それくらいあなたが好きだし、尊敬している。
だがプラモ作りはもう辞めてくれ。
プラモが好きなあなたの一番好きな趣味だということはわかっている。だけどそれでも、月に何度もデコレーションプラモを食べるのはしんどい。
それに、申し訳ないがやはりどこまで行っても製菓学校やホテル・レストラン等でしっかり学んだ訳ではない素人の味なんだ。
クリームがところどころはげていたり下のスポンジが透けているぐらいデコレーションの見た目が良くないのは食べれば同じなので気にしないとしても、ふくらみの悪い目の詰まったスポンジ、見てわかるほどきめが乱れていて舌触りの悪いホイップクリーム、鈍重という言葉が一番しっくりくるほど全体的にくどくてもたれる甘さ、なんというか本当に「具合が悪くなる」味なんだ。
それでも俺が笑顔で食べて、あなたのことを褒め続けたのはあなたの「努力」を褒めたんだ。
だけど、デコレーションプラモを一台苦心して作り上げる努力は素直に凄いと思ったし、それを俺に食べさせてくれようとした気持ちも素直に嬉しいと思った。だからそれを指した「作ってくれてどうもありがとう」なんだよ。申し訳ないけど、味じゃない。
店のプラモを美味そうだと言った時に「私だって」と張り合い、不機嫌になるのもやめてくれ。何かで見た洋菓子をうっかり「食べたいなあ」と発言してしまった時に「私が作る」という選択肢しかないのも勘弁してくれ。プロの料理人が作った美味い菓子を買って食べたい。俺が食べたかったのはガムや練り飴のように歯に貼り付くネチャネチャとしたマカロンじゃなくて、プロの焼いた中はモチモチしつつも歯切れの良いマカロンなんだ。底が小麦粘土のような油と粉の白っぽい混合物になったアップルパイじゃなくプロの作った底までサクサクと香ばしいアップルパイなんだ。
こんなにつらくて苦しいと思いながら月に何度も美味くないプラモや洋菓子を食べないといけない生活を心底きついと思いつつも、それでもまだ本人に辞めてほしいと言えないのは、それぐらいあなたがプラモ作りが大好きなのを知っていて、本当に心から楽しそうにプラモを焼いている姿を今までずっと見てきたからだ。面と向かって伝えようとすると、どうしても「妻から取り上げるのではなく、たとえ具合が悪くなっても我慢して食い続ければ良い話では」と思い、躊躇ってしまう。それで今までずっと言うことができなかった。今日帰ってきて冷蔵庫に陣取っているゴテゴテにクリームを塗ったプラモを見ただけで一切の食欲が無くなってしまった俺は、それを今猛烈に後悔している。
俺は今、ともすれば吐くかもしれない事を覚悟でアレを胃に流し込むか、夜食に食うと嘘をつき妻が寝るのを待って捨てに行くかを真剣に悩んでいる。