ヴァイオリンの弦の話。
前提として、弦を変えたくらいで演奏の質が向上するほど、ヴァイオリンは簡単な楽器ではない。
結果、プロアマ問わずほぼ数種類の定番製品に偏って選ばれてきた歴史がある。
それが今世紀になって勢力図が書き換わってきたというか、ある老舗が出した新製品が大人気になっている状況。
これがどうにも理解できないという話を書いてみる。
最初に、ヴァイオリンの弦の最高級品として長らく、そして今なお君臨するオリーブという弦を紹介する。
こちらの試奏の通り、まるでオペラ歌手のような「美しい」以外に形容のしようがない、艶やかに朗々と鳴る、素晴らしい音だ。
次に紹介するのが、弦の定番としてプロアマ問わず最も広く普及しているドミナントという弦。
今風に言うなら上述のオリーブの、ジェネリック的な立ち位置を目指して元々は開発されたそうで、コスパの良さとプレーンな音色で大成功。
とりあえずこれさえ張っておけば、あとはなんの心配も要らないと断言できるくらい、デファクトスタンダードな弦だったり。
通常は4本ある弦のうち最高音だけゴールドブラカットの0.26mmという弦にした組み合わせで使うのが定番。
というか、楽器屋の展示品に張ってある弦は高確率でこの組み合わせ。
というわけで、少なくとも20世紀が終わるまでヴァイオリンの弦はドミナント一強で金持ちはオリーブ、こだわりが強いごく一部がその他諸々…というチョイスだった。
それが今世紀に入り、エヴァ・ピラッツィという弦が登場して変わり始めた。
今ではこの弦、プロでも愛用者が大勢いるだけでなく、音大生やアマチュアにも大人気の弦になっているという有様。
この試奏を聴いて読者諸兄はどう思うだろう?
確かに分かりやすく華やかでインパクトある音だが、それ以上に品がない。
華やか≒音の通りがよく刺激的である反面、ヴァイオリンの持ち味である音の上質さが消えてしまい、嫌らしすぎるサウンドに感じてしまう。
例えるならオリーブやドミナントが全年齢向けイラストなのに対し、エヴァはR18っぽさが半端ないのだ。
あるいは濃い味で一口目から胃袋を掴みに来るB級グルメとか、生地よりもクリームやフルーツばっかりが主張するケーキみたいな。
そりゃ手軽に派手な音を量産できるだろうけど、ヴァイオリンをそんな安っぽいツールにしないでくれよ…という感じ。
で、これはおまけなのだが、自分みたいな人間向けのつもりなのか
「そんなあなたのために、あのエヴァの上位互換製品があるんですよ!」
と言わんばかりの、エヴァ・ピラッツィゴールドという弦があったり。