2022-05-08

七色に輝く横断歩道

信号機を待ちながら、車の行き交う道路を見る。

目を落とせば、その合間に見える横断歩道

ふと、この横断歩道の白い部分だけ使って渡りきることができたら…と思い始める。

小学生かよと思いつつ、渡りきれたら、今日は何か良いことがあるような気分になった。

さて、信号が変わり横断歩道渡り始める。

先程の思い通り、横断歩道は白い部分を踏みつつ進む。

そして、丁度3つ目の白線を踏むその瞬間にそれは起こった。

横断歩道が七色に輝き出したのだ。

横断歩道塗色が剥がれかけ、白い部分も所々、アスファルトをあらわにしている。

道路は4車線。横断歩道も轍の部分だけわずかにくぼんでいる。

白線は渡る前に数えて、丁度20本。

その20本が順序良く、奥から赤橙黄色と変わっていく。

剥がれかけた白色も、フラットデザインのようにのっぺりとした面になる。

LEDライトを埋めたかのように、様々な色で光り出す。

これは帰って知ったことだが、横断歩道の線幅には規定があり、45~50cmなんだそうだ。

そして、その間には同じサイズの隙間がある。

まり、白色部分を渡り続けるには、その2倍の距離ずつ進まなくてはいけない。

小学生のような幼い子どもにとっては、大股になったって渡れない幅だろう。

しかし、私は大人になったのだ。

実際、3つ目までは何の苦もなく渡りきれた。

このままなら最後まで渡りきれるはずだった。このままなら。

それなのに、私の希望は結局叶わない。

白線だけを踏んで渡るという些細な願いさえ叶わない。

ある意味、夢のような体験を経て、横断歩道渡りきる。

もはや、その塗色は白色ではなかったが、その上を踏みつつ渡りきった。

その一歩一歩は、ピアノの鍵盤を連想させた。

もはや白色など見えもしないのに、色の規則的な移り変わりが音楽を思わせたのだ。

人に聞けば楽しくも感じられるだろうそ体験だったが、気づけば涙が流れていた。

そんな美しい配色は、私の些細な希望を奪ったのだ。

振り返って見る光景も、どことなくにじんでいた。七色の先に点滅する緑色

そして、信号は赤に変わり、横断歩道は車に踏みつけられる。

あの瞬間は終わったのだ。

まり横断歩道本来の色を取り戻したのだった。

様々な色の車に隠されながら、その横断歩道は元の白色だった。

その白色は、剥がれかけながらも非常に鮮やかに感じられた。

横断歩道が白色であるのは、視認性が高いかなのだと身を以て知ったわけだ。

しかし、行き交う車の中で白線を踏みに行く勇気は無い。

そんな蛮行理由を聞かれて、「今日は何か良いことがあるような気分」だったからなんて言えない。

なぜなら、私は大人になったのだ。

まりはそういうことだったのだ。

やがて、その様子を見るに耐えられなくなって視線を上げる。

本日は晴天なり太陽を見れば、溜まる涙に七色の虹が映る。

かの国で、虹は不幸の象徴だと言われる意味がわかったような気がした。

虹は私を惑わし、不安を残していく。

まるで、虹のような突然の出来事だった。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん