2020-05-14

床に布団を敷いて寝転ぶのが好きだ。

地に身体が面しているからか、安心感があって良い。

柔らかいベッドも悪くないがあれは贅沢品だ。

例えるならば価格メニュー記載されていない店で黒毛和牛ステーキを頼む様な、敷布団はいもの定食屋でBセットを注文するような感覚である

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はじめ

50cm×40cmの小さな折りたたみ式のテーブル、それが自分のスペースだった。

陰気臭いオタクであった為にデスクトップパソコンモニターひとつ持ち込む。

テーブルをいっぱいにするにはそれだけで十分であった。

学生であるから宿題なんてのが頻繁に課されるので、モニターを目一杯奥に押し込んで余りの場所で済ませる。

共有スペースに敷布団を用意して寝て、起きたら布団は片付ける。

これが日常だ。

 

日常から一ヶ月が経った頃、部屋が与えられた。

物置と呼ばれていたが、おおよそゴミ屋敷だった一角を一掃した場所である

とはいえ、数日くらいなら敷布団を出しっぱなしにしていても良いというのはなかなか気持ちがいい。

なにしろ狭いテーブルなんか気にせずに物を広げられるのだ。

たかも完全なプライベートが与えられたかのように思えた。

二週間後。

同居人(とは言ってもほとんどの場所占拠している)#####が脈絡もなく「ベッドを買おう」と言い出した。

りある空間に動かせない物を置いてより狭くするなんて御免だ。

もちろん「要らない」と即答した。

返答が聞こえていないのか、家具カタログを広げて「これなんていいんじゃない」と続けたものから、堪らず

必要ない、敷布団で十分です」とハッキリ言った。

すると気に食わないといった顔で「あっそう」と投げ捨てると別室へと消えた。

そのまた二週間。

自室にはベッドがあった。

#####がカタログボールペンでぐるぐると丸をつけていたそれだった。

呆気に取られてぼんやりしていると「いいでしょう」と声がした。

振り返るとやけに上機嫌な#####が隣にやってきて「良い物を選んだでしょう」と意見を促してくる。

「いや、ベッドは特に欲していなかった」

本心を告げると#####はカンカンに怒って「わざわざ選んで買ってやったのに」と叫び、また別室へと消えた。わざとらしくドアを思い切り閉めるので非常にうるさい。

なによりも腑に落ちなかったのは、そのベッドが自分で組み立てるタイプの物で、箱から取り出してから特に手をつけられていない事であった。

どうしようもないので組み立てた後、いつもの敷布団をベッドの上に置く。

その日はまるで胃もたれでもしたような、もやもやとした心のまま眠りに落ちた。

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