2018-05-20

あれから半年

世の中には射精目的とせずに風俗通いする変人もいると聞き、自分もその変人なのだと言い聞かせることで月に1度、2度風俗に行ってはいた。

しかしこの、童貞というスティグマはそう簡単には消えてはくれない。女性の顔を見ることができる程度に慣れ、単純な意味での恐怖は薄れたのだと思う。しか生理的刺激で半立ちはしても射精に至らしめるのは結局、精神作用だ。

連休明けの予約で一歩出遅れ目当ての人気上位嬢は既に予約終了、そんなとき店員に勧められたのが彼女だった。

店にも寄るのだろうが、ランキングで上位に入るのは"ある程度"若く、"ある程度"可愛く、愛想もサービスも良い嬢、と大体相場が決まっている。残念ながら彼女ランキング下位か圏外、目元を隠していても伝わる落ち着いた佇まいとやや地味な雰囲気が平均よりも年齢を高く見せているのが不利なのだと思われた。

普段自分なら決してこんな甘言に乗ったりはしない。しかしその時は、諦めの境地に達しようとしていたためなのか予約していた。

当日。そこにいたのは三船美優(仮名)さんだった。隠しきれない団地妻、或いは未亡人オーラとでも言おうものが漂っていた。綺麗美人ではあるが派手さはない。

その日も自分はいつも通り、お任せしたいということだけを伝えて後は俎の鯉になる。失敗が一つ増えた程度で今更何も変わりはしないのだ。

互いに脱いで洗体かと思いきや、三船さん(仮名)が唐突に頭を胸へ押しつけてきた。ああ、この人は(それほど大きくはなくとも)胸に自信があるのだなと思う。確かにおっぱいに挟まれ埋もれるのは感触としては心地が良い。しかしそれ以上に心は冷えてしまう。どうせまた唇に乳首に押しつけるという儀礼的な行為を求められ、反応しない自分に苦悩するのだ。

しかし三船さん(仮名)はただ、何も言わず、動かず、一定の鼓動を聞くだけの数分が経過した。そして、落ち着いたかと問うた。

その言葉を聞いて、意味理解すると、無性に涙が溢れ、零れた。思えば、こんな言葉をかけて貰ったことはなかった。今まで自分はただ、誰が定めたかも分からない一連のプロトコルに従うことしか頭になかった。ならばサービス提供である嬢はそれに応じるしかない。セックス自慰の延長と捉えていたのが根本的に誤っていたのだ。これでは上手く行くはずがない。

滂沱は一定量を超えると口元がひりつく嗚咽になる。声を隠すこともできず泣き続ける自分の髪を、三船さん(仮名)はただ撫で続けてくれた。

いつだかのホッテントリで、おっぱいに胸を埋めてバブみを感じて生きる希望を得たみたいな話があった。

それはただ大きなおっぱいから有り難みがあっただけなのでは、などと考えていたが、違う。大きくはなくとも、心から包み込まれおっぱいに勝るものはこの世には無いのだ。

一頻り泣き、身体を洗い、湯船に浸かっても、三船さん(仮名)は何も聞かず、性的行為も求めず、自分はその優しさに甘えた。彼女聖女でもなんでもない、ただの女性だ。チョロい客だと思われたのかもしれない。だけどこの優しさを自分は求めていたのだと思う。

ベッドでは胸に顔を埋めて眠った。

今度は涙は流れなかった。

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