大学時代の友人に子供が産まれたと連絡を受け、お祝いがてら友人宅にお邪魔した時のことである。
友人の結婚式以来なので、奥方も交えつつお互いの近況報告や思い出話などに花を咲かせていたら晩御飯の時間になり、そろそろお暇します、いやいや食べていってよ、というやり取りを繰り返した末、半ば強引に食卓につかされてしまった。
聞くと今日はカレーだという。あくまで固辞の姿勢を崩すまいとしていた私の心はその一言で大きく揺らいでしまった。私はカレーが大の好物なのである。
冷蔵庫から奥方が一晩寝かしたと思われる鍋を取り出し、レンジにかけるのを眺めながらそろそろ私も結婚しようかなと当てもない決意を固めていると、熱された鍋からカレーの匂いが漂ってくる。
筈であった。
大便の匂いがする。大便以外に例えようのない匂いがキッチンを満たす。カレーと聞いて刺激された食欲が急速に萎んでいく。リビングの向こうから赤子の泣き声が聞こえる。この状況に対する動揺を訴えようと友人を見ると、友人は幸せそうに奥方のエプロン姿に目を細めつつ、泣き始めた赤子をあやしに席を立ってしまった。
恋は盲目というが視覚だけではなく嗅覚も麻痺させるのかもしれない。
そんなことを考えていると逃げる間も無く、皿に盛られた白米および大便、否、カレーが目の前に出された。まさかと私は目を疑ったが、茶色いそれは匂いだけでなく外観も大便であった。挽肉と人参の微塵切りが入ったドライカレーと信じたいが見た目は体調の良い時の大便をペースト状にしたものと相違なく、匂いもその感覚を補強して余りある。
「変わってるだろ、うちのカレー。ちょっとした隠し味を使ってるんだ」友人が赤子を抱き抱えながら自慢気に話す。
「まさかそれは…」流石に奥方もいる前で大便などと口走ることは出来ず私は言葉に詰まる。ぐつぐつとカレーの煮える音がやけに大きく聞こえる。
「あら、あなたの分のルゥがなくなってしまったわ。ちょっと出してこないといけないかも。お客さんがくるならもっと用意しておいたのに〜」奥方の不穏な発言に私の動悸が激しくなる。出して…?
「ぼくのをつかっていいよ」赤子が急に自らの足で立ち上がりオムツを外そうとする。
「いやいや、ご馳走されてばかりでは申し訳ない。一飯のお礼になるかは分からないが私のを使って欲しい。これも出産祝いということで」
私はすくっと立ち上がるとトイレに駆け込んだ。
クソわろた