職場にとある女性がいて、あんまり評判が良くない。客に対してスジ論を盾に依頼に応じなかったり、同僚の小さなルール違反なんかをあげつらって正論のグーパンを叩きこむ。
正義の斧を振り回して敵味方問わず頭をたたき割ってまわるイカれたバーサーカーだ(イカれてないバーサーカーなんかいるのかって話はあるが)。
先日、ついにおれもバーサーカーと仕事をすることになった、当初はなんとなく不安を感じつつも粛々と仕事は進んでいた。
が、ある日客がいるところでバーサーカーがキレた。ちょっと予定が変わって、余分なタスクが増えたためにキレた。「予定されていない!」とスジ論を持ち出して大きな声を出して、みんなドン引き。おれはあわてて「ここでやっておくと後々楽かもですよ。」などとなだめようと試みるも「そういうことじゃない!」とマウントからグーパンをたたき込まれる。それを見ていた客に同情される始末。
その日バーサーカーは仕事を進めるおれや同僚を横目に、体調が悪いと言って早々に帰宅し客を唖然とさせた。
キレ疲れからか、翌日バーサーカーは休んだのでおれはだいぶホッとしたのを覚えている。しかし、やがてバーサーカーは出て来る。あさイチから「机の上に書類とか置いて席を離れるなよ!」などとグーパン食らったり、過去の判断ミスについて追及のメールを送って来られたり。
そうした状況は愉快ではないものの、おれが周辺からの評価を下げるわけでもない(と思いたい)ので、わりと冷静だった。なんとか仕事を進めるため、ヘコヘコと下手に出つつ、バーサーカーからタスクをはがしていくことを考えた。
で、仕事は山を越えて今これを書いている。
正論やスジ論は、正しい(めっちゃトートロジーだ)。なので、反論しずらい。
それが最適か?適切か?という論点はあるだろう。が、それらは基準が状況によって動的に変化するので、議論に用いにくい。
バーサーカーは自分に最も適した武器が何なのかをよく理解している。強い。
とはいえ、中長期的な生存戦略としては疑問が残る。そうした振る舞いを続けるのは、言ってみれば焼畑農法であって、短期には多少の収穫があるかもしれないが、すぐに土地は枯れ、土地が枯れれば移住せざるを得ず、行きつくところは白夜の荒野じゃないかと思う。
バーサーカー自身はそうした振る舞いによって自分はユートピアにたどり着くと考えているのだろうか。それとも白夜の荒野に近づくと知りつつ、抑えきれない自身の情動におびえているのだろうか。あるいは暴力という快楽がありさえすれば良いのだろうか。
その後のバーサーカーの様子は静かだ。おれがこの仕事から学んだことは、バーサーカーが怖いのはキレてる時じゃなくて静かな時だってことだ。