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はてなキーワード: エミリー・ディキンソンとは

2022-07-31

小説でもない本の冒頭に必ず書かれている「親愛なる家族へ―」とかいうのなんなのあれ

魂の扉は、いつもほんの少し開けておかなければならない。――エミリー・ディキンソン

いやいらねえよこんなの。本文の伏線になっているわけでもないし。

気持ち悪い。

2020-05-10

All Right, All Right

バイト先の「ふぃよるど」というノルウェー料理店がコロナの影響で閉店することになって、全員で乃木坂まで閉店作業を手伝いに行った。全員といってもおれ自身を含めてバイト学生の3人だけだったが、小さな店の厨房設備什器を回収業者トラックに運び込むにはその人数で十分だった。

夕方には作業が終わって、最後に3人でご飯でも行こうかということになり、平林の車に乗って南青山六本木方面に行ったはいいが、どこも営業自粛中で閉まっている。

「どうする?」とおれが訊くと、「どこでもいいよ、ラーメン屋でもなんでも。ちょっと調べてみる」とディキンソンがiPhoneを取り出す。ディキンソンは女子大英米文学科に行っていて、本名別にあるのだが、エミリー・ディキンソンかい詩人について卒論を書くつもりらしい。理工学部平林経済学部のおれはその方面に全く無知だったので、詩人名前の響きだけで衝撃を受け、以来店では彼女をディキンソンというあだ名で呼んでいた。

車内では爆音日本語の歌がかかっている。バブル期ぐらいの日本音楽を集めるのは平林趣味で、とくにアイドル音源偏愛していた。高校まで競技水泳をやっていた平林運転席でイカリ肩を揺らしながら酒井法子?の歌に合わせて All Right, All Right と裏声で歌う。


All Right, All Right

恋を失くした

友達にこれしか言えないの

悔しいけど


「あった、開いてるとこ。オメガラーメン麻布十番。どう?」ディキンソンが後ろの席から画面を差し出す。青山霊園を走る車の中で、平林は相変わらず All Right, All Right と裏声で歌う。「ちょっと、うるさい」とディキンソンが平林の頭を押さえつける。おれは助手席からiPhoneの画面を覗き込む。「いんじゃないかな。あとは車停める所か、探してみる」

オメガラーメンは空いていた。というか客はおれたちしかいなかった。カウンター6席ほどの店で、3人並んで座るとけっこう密だったが、今日いっぱい密だったので、いまさらどうしようもないよなと話しながら座った。

「えいらっしゃい」と店主らしき人がカウンターごしにメニューを置くが、オメガラーメンと一行書いてあるだけだ。3人ともオメガラーメンを頼んだ。

出てきたのは真黒なラーメンで、独特のぬめりがあるスープから肉の塊らしきもの突き出している。ビーフカレーのようにも見えるが、中央に配置された白髪ねぎ小山ラーメンらしい外観をかろうじて保っていた。

味はなんというか、微妙だった。3人とも無言で平らげて店を出た。

代々木上原に住むディキンソンを途中で降してから赤羽実家がある平林田端に住むおれは北へ向かった。

「また3人でこうやって会うこと、あるのかな」

ぼやきに近いおれの問いかけに、平林は一瞬黙ってから答えた。

「どうかな。まあ、あるんじゃないかな。当面、全員日本にいることになりそうだし」

「どういうこと?」

「咲は、あ、ディキンソンは、秋からアメリカ大学留学が決まってたんだけど、話が流れちゃったらしい。コロナのせいで先行きがわからいからって。それでけっこうがっかりしてたんだ」

「そうなのか」としか言えなかった。

なぜおれは知らないのか。なぜ平林は知っているのか。なぜディキンソンの下の名前を言ってからディキンソンと言い直したのか。

坂下交差点で降してもらい、セブンイレブンに寄ってからアパートへ向かうあいだ、胸に覚えのない異物感を感じ続けていた。それは甘すぎたオメガラーメンによる胸焼けなのか、ディキンソンにこれまで自分が何かを感じていたことにたいする動揺なのか、わからなかった。

 
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