2021-12-08

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あるオフィスの一室で、サイヤ人スーツを着た口髭の男は泥団子を作っていた。

「光泥団子作りは楽しいなぁー」

椅子に座った男は目の前の作業机の上に、ツルツルに光っている泥団子を乗せ、コロコロと転がしている。

しかしその場所に突然大声が響いた。

FBI!」

警察手帳のようなものを握ったサングラスの男が、銃を片手にオフィスに押し入ってきた。

サイヤ人スーツの男はたちまち驚くと、光泥団子を床に落としてしまう。

ツルツルの光沢を放っていた光泥団子は無惨にも、地面に落ちた衝撃で割れしまった。

「うえーんうえーん」

サイヤ人スーツの男はその現実を受け入れることができなかった。声をあげての大泣き。男泣きである

「これは失敬!この十四万でどうにかなりませんか?」

FBIを名乗るサングラスの男は懐から十四枚の一万円札を取り出し、サイヤ人スーツの男に差し出す。

サイヤ人スーツの男はそれを受け取ると、噛み締めるように胸元にかき抱いた。

「あったけぇ金。あったけぇ金……」

やがて涙も止まり、冷静さを取り戻したサイヤ人スーツの男は、目の前にいるFBIを見てハッとする。

「おや?その顔は……貴方はもしや」

FBIの顔に見覚えがあったのだ。それは彼が、つい先程まで見ていたテレビの中でのことだった。

緊急速報です!あの世界的有名なハリウッドスターアーノルド・シュワルツェネッガー氏が来日しました!』

そう、彼はアメリカの超大物俳優アーノルド・シュワルツェネッガーだった。

「ええ、私はアーノルド・シュワルツェネッガーですよ」

アーノルドさん!?本物ですかっ!?

「ええ、もちろん本物ですよ。ほらIDカードだって持っているでしょう?」

アーノルドは、本物のIDカードを男に見せつける。

「本当に本物だ!なんでこんなところに?」

「いえね、日本テレビ局の方々と、とある撮影をする予定だったのですが……。急遽それが中止になったものですから、暇になってしまいましてねぇ」

「そ、そうなんですか……。あ、それじゃあちょっと待ってください。俺、光泥団子の作り方知ってるんで教えてあげますよ」

「本当ですか?いやぁ助かります!」

こうして二人の仲は急速に縮まり、ついには友情すら芽生え始めるのであった。

「私達は友達ですね!」

「ええ、我々は友達ですとも!」

そして二人は固い握手を交わす。

「ああよかった!……ところでどうして私のことを知っていたんですか?」

「実は今朝方ニュースを見ておりましたら、たまたま貴方名前が出てきて驚きました。まさか有名人と知り合いになれるとは思いませんでしたよ!」

「いやいやこちらこそ、映画以外で会うことができるなんて思ってもみなかったです!」

二人の会話は弾む。そしてそんな二人の元に、一人の警官が現れた。

すみませんあなた方が話していた例の映像についてなのですが、あれはやはり合成映像ではなく、本当の出来事だったようです」

その言葉を聞いて、アーノルドサイヤ人スーツの男の動きが止まる。

「……ということは、つまりどういうことですか?」

はい。その映像に映っていた少年実在します。そして現在行方不明となっております

なんということでしょう!それは大変じゃないですか!」

はい。それで我々としては捜査のため、ぜひアーノルドさんのご協力をいただきたいと思っているのですが……」

警察官言葉に、アーノルドゆっくりと首を振る。

「いえ、残念ながらそれはできません。なぜなら私は今仕事中だからです。この通り」

FBI制服を着て、銃を手にした男が立っている光景こそが、まさに仕事中だったのだが、アーノルドはそれを気にも止めず断言した。

「いやでも……」

それでも食い下がろうとする警察官に、サイヤ人スーツの男は慌ててフォローに入る。

「まあまあ落ち着いてください!アーノルドさんの仕事が終わったら手伝うというのはどうでしょうか?」

「おお、なるほど。そういうことでしたら問題ありませんね」

そうして話がまとまりかけた時、また別の警官が現れ、耳打ちをした。

すると、今度はFBIの男は慌て始めた。

申し訳ないアーノルドさん。急用ができてしまいました。また後日連絡させて頂きます

それだけ言い残し、警官は部屋を出ていった。

残されたサイヤ人スーツの男とアーノルドの間に沈黙流れる

先に口を開いたのはサイヤ人スーツの男だった。

「何かあったんですかね?」

「さあ、わかりませんね」

そこでサイヤ人スーツの男はハッとした。

「そうだ!アーノルドさん!」

「何ですか?」

「あのですね!もしよろしかったら、俺と一緒に協力して、その少年を探してくれませんか!?

「なんですって?」

「俺は光泥団子作りが得意なんですよ!」

こうしてサイヤ人スーツの男とアーノルド・シュワルツェネッガーによる、『ターザン捜索隊』が結成された。

彼らは早速情報交換を行うことにした。

まずはお互いの知っている情報を開示する。

「そうですか。そんなことがあったんですか……」

サイヤ人スーツの男の話を聞いたアーノルド・シュワルツェネッガーは、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「ええ、そうなんです」

「……その件ですが私には荷が重いです。どうか他をあたってくれませんか?」

「そう言わずアーノルドさん!これは世界的な大事件ですよ!?

「私は俳優であって探偵ではありませんから

アーノルド・シュワルツェネッガーは頑として首を縦に振らない。

そこへ、再び一人の警官が現れる。

「失礼します。例の映像について新たな情報が入って参りました」

「ほう?どんな内容ですか?」

はい。実は先程、ある人物から情報提供がありまして……。なんでも、その少年の名はタダノ・ヨウスケというらしいです」

「ふむ、それは一体どこの情報ですか?」

「それがなんと……テレビクルーの一人からの密告でして」

「なんだって!?

「ど、どうしました?」

突然の大声に驚くサイヤ人スーツの男。

だがアーノルドはお構いなしに続ける。

「……詳しく話を聞かせてください」

それからしばらくの間、二人の間で激しい舌戦が繰り広げられた。

そして一時間後。

二人の話し合いが終わる頃には、すでに日が暮れていた……。

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時は少し遡り、アメリカ某所。

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