2015-11-08

ウヨク男根

 彼らは「本当の日本の姿」を保守しようとする。「いまは失われつつある、真の日本」というものがどこかに在ったのだと信じて疑わない。それはいわゆる「国体」というやつで、終戦と同時に去勢されたものであるとされている。自虐史観を植え付けられ、「偏向報道」を浴びて育った人たちが、「回れ右」して、そうした主張をするようになる、というのは九十年代小林よしのりブーム以降、とくによく見られるものとなっている。そういった人びとは、その小林によって「純粋まっすぐ君」と形容される。

 そうした人びとは、それまで大きく左に逸れていた自身イデオロギー修正し、遅れを取り戻そうとするように真逆に舵を切り、正統と思しき情報収集する。こまごまとした情報のなかからピースを掻き集め、失われた「国体」というパズルを組み立てていく。この過程で、合いそうにないピースは選ばない。たとえば近世以前の歴史とか、かつての天皇スキャンダラス出来事とか。そういったことは本質ではない、語るに値しないものとされる。「ご先祖様の残してくれた」などというわりに、その先祖がどういった人びとだったのかはよく知らない。いや、知ること自体を避けているようだ。彼らはそれまでの欺瞞に満ちた現実から脱け出し、真実世界にやってきた。自身に「知る権利(正確には「自分の知りたいことを知りたいように知る権利」)」があることを知った。朝日新聞読者を放り捨て、かつての正しい規範(としての国体)を取り戻すべきだと悟ったのだ。教育勅語から徴兵制から、よき「日本人」を規定するために使えそうなピースはすべて使おうとする。いじめも、格差外交といった諸問題は、本来日本人パフォーマンスを発揮することで少なから改善される。つまり日本人は「まだ本気出してないだけ」なのだ

 しかし、そんな継ぎ接ぎのグロテスクな「国体」は蘇生することはない。集めた肉片や骨片を継ぎ合わせて元通りにしたつもりになっても死体は生き返らないのと同じである。そして、そのことに彼ら自身も気づいているはずである。歯型やDNAの鑑定により死者を同定するような、そんな作業で自身の望まぬ結果が得られてしまう予感に恐れ慄いているのだ。彼らは気に入りの言説を批判的に検証し、点検し、解釈する能力を自ら放棄している。「思考停止」というのはそうした状態のことではないか。彼らは使命感を胸に、猛然と情報収集し、彼ら自身文脈にそれらをくまなくマッピングして論陣を張るが、そうした一見すると知的に見える営みにおいても「思考」は停止している。

 暴力的なまでに純粋な彼らの心は、そうした営みによっては決して満たされることがない。ウヨクであるということと交換可能な機能代替物は、見つけることができるかもしれない。それはアイドルであったり、ソープであったり、さまざまだろう。わが国は娯楽大国で、あらゆる「ガス抜き装置よりどりみどりである去勢された彼らはこれから喪失感に苛まれながら闇のなかを歩み続けることだろう。新たな男根が生え、思考がふたたびドライブし始める日まで。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん