会社で、夜間に何かしらシステムアラートを検知すると当番に電話がかかってくる的なあれがある。昔は人がかけてきたんだけど、どこかのタイミングから自動コールになって、機械音声が流れるようになった。それがなんか、抑揚のない、いかにも機械音声って声なんである。まあ言ってくることなんて「アラートを検知しました。メールをご確認ください」くらいの定型文だから別にいいんだけど。
で、その日も電話が鳴って起こされた。夜中の3時くらい。眠い目をこすってパソコンを開けて、アラートメールを見ようとするが、特にメールは来ていない。おかしいな、メールの調子が悪いのだろうかと思って、監視システムの画面とかいろいろ見てたら、また電話が鳴った。アラート通知である。
アラートメールはやっぱり来てない。監視システム側も何かを検知した形跡はない。そういえば、アラート通知の電話で機械音声がしゃべる文言が、なんかいつもと違った気もする。文言なんて定型文だから、ろくに聞かずに切っちゃうんだけど、なんかちょっと違った気がする。
これはもしかしてあれかな。自動コールの業者がオペミスかなんかで、全然関係ないシステムのコール先を俺にしちゃってるんじゃないか。システムが違うから通知の文言も違う。そういうわけだ。無駄に起こされて気分も悪いし、本当のコール先に電話がいかないことで、その何かわからないシステムの障害がさらにひどいことになってるかもしれない。クレームを入れよう。
業者の連絡先を探していると、また電話が鳴った。アラート通知だ。今度はちゃんとメッセージを聞いてみよう。電話に出ると、いつもの抑揚のない機械音声がこう言った。
「いど の なか を のぞかないで ください」
なんだこれ。意味がわからない。気持ち悪い。背筋にひんやりしたものが走る。俺は電話を切って、そのままうちの会社の監視システム担当の人に鬼電する。担当の人は電話に出てくれて、自動コールの業者にクレームを入れてくれることになった。
結局、たしかにアラートは検知していないのだがコールした履歴は残っていたとのことで、誤検知でした申し訳ございませんでしたって話になった。ただ、通知の文言が変わってたってことはないはずで、監視システム担当の人にも寝ぼけてたんじゃないかって言われた。
その日はそれ以降、電話が来ることはなかった。その後も夜間アラートの当番が回ってくる日はあったけど、誤検知はなかったし、メッセージが変なこともなかった。だけど、俺は夜間アラートの電話に出るのがなんとなくきつくなってしまって、会社を辞めた。
あと、井戸を覗けなくなった。いや、現代日本に井戸なんてほとんどないからどうでもいいんだけど、古い神社とか城とかにたまにあるじゃないですか。あれに近づけなくなった。覗かないでくださいってだけ言われたけど、覗いたらどうなっちゃうんだろう。そう考え始めると怖くなって覗けない。
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