恋愛関係というにはあまりに複雑だったし、長く一緒に居すぎたから恋愛感情以外の気持ちも大きすぎて、適切な関係を表す言葉がなかった。夫婦くらいお互いのことを知っていて、友達くらい遠い関係だった。あれだけ激しく求めった肉体関係を断った後でも、二人の関係性はお互いのことが好きっていう前提に成り立っていたから、多分これが終わったのは失恋でいいんだと思う。
長い間一緒に居たから嫌いなところもいっぱい見つけた。俺は人の良いところを見つけるのが上手いとか、そんな立派な人間じゃないから彼女の嫌いなところが気になっていつも一人でイラついていた。彼女もそれに気づいていたけれど、俺はどんなにイラついても彼女のことが好きだったし彼女のことが大切だったから、彼女もそれを受け入れていた。たまに長く付き合った恋人や夫婦が恋愛感情は冷めたけど友達として好きだからと言っているパターンがあるけど、俺たちの場合はそういう冷めた関係性と恋愛感情が何故か別々に交じり合わずに共存していたと思う。
手も触れ合わずに過ごす関係が心地よかったとも思えない。恋愛を超えた人間的な尊敬による関係を装っていても、俺たちの間には人間的な、あまりに人間的な感情が渦巻いていた。疑念、不安、執着、愛情、恐怖、嫌悪、憧憬、恐怖、嫉妬、性欲、支配欲、全部がそこにはあった。理性では制御できない感情の渦の中で俺たちはぐるぐるとずっと回っていた。俺たちは一緒に居るだけでずっと傷つけあっていた。彼女は優しいから最後まで言わなかったけれど、多分俺のことを好きな気持ちと同じくらい嫌いだったと思う。俺も彼女のことが好きな気持ちと同じくらい嫌いだったことを言ったことはないけど、彼女もそれは知っていたと思う。言葉にしなくても声を聞くだけで気持ちがわかるような関係というのは、とても残酷にお互いを傷つけあうことになる。
だから多分俺がフラれたのは、俺にとっても良いことだったんだと思う。ここまではフラれた直後にもう理解していた。彼女と話している間に俺が泣かなかったのは、彼女のためにも俺のためにもこれが最善の結論であると理解していたからだ。でも話を聞いてから俺の中に生まれた感情が何なのかずっとわからなかった。ここまで書いてようやく気付いた。俺は恋を失ったのではなくて、彼女と一緒に自分の何かを失ったのだ。彼女とミラーリングしていた、彼女の中のもう一人の自分を失くした。多分これはもうどうやっても見つけられないものだ。俺は昨日までの自分から何かを欠いたまま、欠いたことに折り合いをつけて生きていかなきゃいけない。
人間は誰もしも人として大事な何かをこぼれ落としながら生きていくのだと思う。思えば、俺だって人生の中で大切な何かを失くしたのは何も今回が初めてじゃない。でも失くしたものを数えるのはいつの間にか止めてしまっていて、もう何を失くしたのかもきっと全部覚えていない。だから数日か数か月か数年かわからないけれど、この喪失感もいつか思い出になり、記憶になり、いつかは忘れてしまうのだと思う。今はただその時が待ち遠しい。
これは…ロミオメールブートキャンプっすね!