2019-12-22

雨の日

わたしはややあって整体師をしている

色々なお客様がいらっしゃる

今日最後お客様は、長い黒髪大学生だった

お団子に結い上げていた髪の毛をほどいてもらい、施術台に寝てもらう

今日はお休みですか?」

明日試験なんです。なんかもう、疲れちゃって」

「お勉強されてたんですね」

「お勉強しない自分に疲れちゃったんです」

なにをお勉強しに進学なされたのかはわからなかったけれど、彼女の肩はとてつもなく凝っていた

今日で一番だった

とんでもなく労働基準違法した企業会社員だった時のわたしの肩と並ぶほどに

ケアされているであろうしっとりした肌とのギャップが印象的だった

着ている服は大学生御用達、安い量産ブランドのものだったけれど、それでも彼女は研かれた美しさを持っていた

「雨の中のご来店、ありがとうございます

と声をかけてみたけれど、彼女はもう夢の中だった

背中も腰も、凝っていた

彼女スマートフォンの通知の音と雑音、ヒーリング音楽だけの世界だった

彼女の寝顔は、わたし会社員時代恋人に似ていた

とても綺麗な男性だった

地元に帰らなければならなくなった彼も、いまや一児の父である

建築業を営みながら、奥さん二人三脚育児に励んでいるらしい

SNSでそう知ったとき特に思うことはなかった

ただ、わたし子供ができていれば、いま彼はまだ東京にいたんじゃないかと、そう思った

「強くなりましたね」

彼女が声を出した

起こしてしまったのかもしれない

「雨、今日はだいぶ降るみたいですよ」

「雨足じゃなくて」

彼女こちらを見た

「お兄さんの、力」

彼女の正面の顔は、元恋人に似ていなかった

すみません、癖なんです。考えごとをしていたから」

「それくらいの方が好きですよ。たくさん考えましょ。わたしもいま考え事してました。アインシュタイン相対性理論提唱しなければよかったのにって」

彼女理系らしい

意外にもあどけない顔で笑う彼女に、つい笑い返してしまった

彼女ともう少し話がしたいと思った

雨足は弱まっていた

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