当時のインドはまだ外貨が不足していて、USドルのキャッシュで航空券を購入する場合に限り、インド国内航空インディアンエアラインのカルカッターバンコク間の片道切符が60ドル程度の格安で手に入った。
今でこそIT大国なんて言っているけど、その頃は空港のチェックインカウンターには端末もモニターも無くて、空港職員が奥の部屋へ引っ込んでいったかと思うと、暫くして漸く乗客のリストが印刷されてるらしいパンチ穴のついた長い紙を引きずる様にして出てくる有様だった。
そうして、どうやらオーバーブッキングらしいと言うことが、周りの乗客の話し声から聞こえてきた。中には職員に金銭を渡してるらしきツーリストもいた。
外貨が不足する中でインドを出国しようとするインド人には、厳しい外貨の持ち出し制限があった。確か一人400ドル位じゃなかっただろうか。全然足りないよね。遊びに行くわけじゃない。殆どがビジネスだったと思う。
僕のツーリストビザの期限にはまだ余裕があったし、予定があるわけでもなかったので、別にこの便に乗れなかったところで一向に差し障りがあるわけじゃない。
対して、インド人ビジネスマンは違う。どうしても、その便に乗らなければならない事情もあるだろう。一人のインド人男性が職員に食って掛かった。インド人が手を出すのはよっぽどのことがあってなんだけど、彼は職員に対して相撲の突っ張りのようなことをした。職員もやり返した。お互いに突っ張りの張り合いをしながら、二人とも遠くへ小さくなって見えなくなった。