私はその数年前に恐喝がどんな風に始まったのか既に知っていた。だから目の前で刃物を振り回されて脅迫され部屋の中をめちゃくちゃに荒らされても、それは私が死ななければならない理由にはならなかった。男も部屋を荒らされるまでは、死ぬことなど考えてはいなかった。めちゃくちゃに荒らされた部屋は、男を私を道連れにした死へと押しやった。その時私を無力にしたのは、恐喝を相談する為に警察を呼んでほしいという私の懇願を拒否し続けた男の態度だった。自分がした事は全部無駄だったのだという感覚は、数時間前に目の前で刃物を振り回されて脅されたショックと一緒になって私を無気力な状態に追いやった。
女とのことは自分でなんとかする、と言いながら結局その後の何年も女に恐喝され続け、同時にその女を性欲のはけ口に使い続けた男は、初めて自分と女との関係を私に話した後に私を強姦した。惨たらしい体験。そのまま帰せば二度と私が会わなくなる事を知っていた男の身勝手さ。その後も結局「関係を持った事を親に言うぞ」という女の脅しに屈し続け、自分の見栄の為に警察に行く事ではなく死ぬ事を選んだ男を愛していた自分のみじめさ。それでも愛していたのに。
結局。信頼していた相手に身勝手な理由で殺されるというのは、とても耐えきれるものではなかったのだ。その男にとっては「死ぬのを止めた」でも、私にとっては「殺されるのを止めた」にはならなかったから。恐怖は焼き鏝を当てた様に私に刻まれてしまっていて、油断をするとふいに顔をのぞかせた。足元に立っていられるしっかりした地面なんてもうなかった。殺される時に感じた灰色の霧の中をどこまでも落ちてゆく様な虚無感は、二度と消えてはくれなかった。
それでも私に親がいたら、酷い目にあわされた娘を抱き寄せて泣いてくれる親がいたら、私は救われていたかもしれない。たとえ、医者が恐怖と結びついてしまって治療さえ受けられない状態になっていても。私には逃げ帰れる家などなかった。
研修医として男が働き始め、看護婦と好き勝手を始める少し前かな。「今日は具合はどうですか、って聞いている気分になる」と言われたのを覚えている。そうだよね。もうほとんど何もできないほど病んでいたのだから。目の前にいるのはいつも私を殺そうとした男で、油断をするとふいにそれはフラッシュバックした。お前が元に戻らないのが悪いと看護婦と関係を持ってから男は私にはき捨てたけれど、それは消えないのだよ。殺されそうになって生き残った犯罪被害者に尋ねてみればいい。それは消えないのだ。見えないふりをしながら、顔を出さない様に騙しながら、抱えてゆくしかなかったのだ。そういう状況に私を追い込んだ男に好き勝手な嘘をつかれたくはない。
男が働いていたのはとても大きな総合病院で、実は精神科もあった。でも当然だけれど私がそこで診察を受ける事は無かった。そこにいたのは、男が私に危害を加えた事を知る立場になる人間だったから。それもやっぱり男の保身の結果だったのだと今はわかる。指輪さえもない紙切れ一枚の結婚も、男にとっては殺人未遂の時効が来るまでの単なる時間稼ぎでしかなかったのかもしれないね。
http://anond.hatelabo.jp/20160114224240 がものすごくわかりづらいのだが、整理すると以下のようなことでいいのか? 「私」は女。「男」は研修医で、「私」の戸籍上の夫。勤務先の病院の看護...
おれは元増田じゃないけど、たぶんちょっと間違ってるぜ、増田。 「男」が関係を持ってた相手はふたりいる。最初の相手が「女」で、「男」は「女」に何年も親に関係をばらすと恐喝...