河川敷を走る一台の三輪車。前には5歳と7歳の男児。そして、少し女の人が一人。日傘をもって歩いてる。
走るといっても、母親の歩く速度とそう対して変わらない。
二人の兄が、ときおり、かわりばんこで、三輪車を押して走る。そのときは、きゃっきゃと笑って、自分が及ばない速度を体感して喜んでいる。
秋晴れの雲ひとつない透き通った空が、4人を見下ろしている。
優しい風が、いつまでもこの時間が続きますようにと、祈りを捧げて通り抜けていく。
川面は絶え間なく秋の日差しを反射し、きらきらと輝いている。あぁ、ずっとこの時間が続けば良いのに。
「お母さん、もういくの?」幼く、高く透き通った声が母を求める。
午後2時の陽気は、永遠の幸せを一瞬に詰めて降り注いだような、暖かなものでした。
深まる夜のにおい。僕はこのにおいが好きだ。
好きだって言うと語弊があるかも知れない。でもずっとかいでいられるってことは、きっと好きなんだろう。
いつだってそばに居て、手を伸ばせば、いや、手を伸ばさずとも、いつも忍び寄ってくる。
殊に、誰もいない夜道を歩いてるときなんかは。僕は時々、こうしてあてもなくふらつく。
そして夜の臭いを手のうちに握って持ち帰る。この孤独の感覚を握りしめていないと、気が狂いそうになる。
ジャケットのボタンをひとつ留める。首回りのガードを固める。夜が入ってこないように僕はフードも深く被る。
入ってきたら一巻の終わりだ。夜は手に握りしめていなければだめだ。
砂利が踏まれる。
今日はどこへ行こうか。
確かに、川本くんはそうではなかった。小学校の頃の彼は、優しくて、人を笑わせるのが好きで、まぁ、お調子者であったり。
ところが、中学に入ってから人が変わっちゃったんだな。人が変わるって言い方も変だけど。でも川本くんは変だったからしょうがない。
僕の知ってる川本くんは、なんだろう、怯えていた。
もっと違う言葉で表現しようとしたんだけど、僕はそのことを知ってるからそうとしか言えないな。
何も知らない頃だったらもっと違う言い方をしたと思う。例えば、「怖かった」とか。
そう、川本くんは怖かった。それが、僕がその頃、周りの人から聞いた川本くんの感想だった。
「てめぇ、何してんだよ!」
「…ごめん」
昨日までの親友はもういなかった。「子供にはあること」かもしれない。
けれど小さな心には、混乱をもたらすばかりであった。
川本くんが遠くから来てたってことは割と有名だったし、遠くに行ったってことももう一方では有名だった。
ごめん、今日はこれ以上は書けない。川本くんが探し出されてしまうようなことについては僕にきかないでほしいし、誰にもきかないでほしい。
とにかく、川本くんが中学にあがるころには、川本くんはほとんど一人で、両親とはもうほとんど会えない状況になってたってこと。
それだけわかってもらえれば良い。
川本くんが殴った理由なんだけど、だいたいもうわかったろ。またもっと具体的に書くかも知れないけど、
だいたいこんなところなんだ。川本くんは優しかった、優しかったけど、馬鹿だったんだよ。
僕は今これ以上具体的なことを書くつもりはない。
体が冷え切る前に、行かないと。