日本海に浮かぶ人口数千の孤島で、自然は豊かで力強く、名産の牡蠣は小さいながら身はギュッと引き締まり濃厚で美味しい。
そこは、古来より配流の島として知られている。仮に、A島とする。
「天皇や貴族や、偉いお坊さんや、そういう高貴な人たちがたくさん流されてきたところなのよ。そういう都から来た人って教養がある人ばかりだから、A島には都風の文化が色々残っていて面白いの。島民の中には高貴な人のご落胤もいるかもしれない」
そして、続けてよくこう言うのだった。
「うちの島に流されてくるのは身分の高い人が多かったけれど、B島は殺人犯や放火犯がたくさん流されたらしいのよね。そんな乱暴者、受け入れるの嫌よねぇ。きっと島民は大変だったでしょうね」
B島とは、A島と同じく日本海に浮かび古来より流刑地として知られている土地だ。
祖母の言に、へぇ、そうなんだ~、と幼い私は単純に思っていた。今から思えばあれは結構な島びいきの言葉でもあったのだ。
長じてから、観光でB島へ訪れる機会があった。現地の歴史を紹介する資料館に立ち寄ったとき、どこかで聞いたことのあるようなフレーズに出会った。
「本島に流されてきたのは、凶悪犯は少なく、政争に敗れた政治犯や思想犯が多かった。皇族、貴族、武士、僧侶神官など上流階級の彼らは洗練された文人や知識人であり、島に様々な文化や技術をもたらした。辺境の地でありながら今日に至るまで様々な文化が島に残るのは~」云々。
B島に宿泊する際に宿の人と雑談をしたのだが、ポロリとこんな言葉が出たのを聞いた。
「C島なんかは泥棒やら女の人に乱暴したりだとか結構色んな犯罪者が流されたらしいですよ。だから島でも改心しなくて問題もたくさん起こしたんだそうです。その点うちの島に流されてきたのはわりとインテリが多くて」
C島も流刑地としての歴史を持つ島だ。こちらは太平洋に浮かぶ。
もしかして、C島でも「うちの島に流れてきたのは身分の高い教養人ばかりで、A島やB島のような凶悪犯はあまりいなかった」と言っているんじゃなかろうか。