ちょっとだけ、酒に酔っているのでそのつもりで聞いてくれたらいいと思う。
最初は、じいちゃんに手を引かれて保育園に連れて行かれる俺が、その道すがら毎日毎日泣きじゃくって嫌がって嫌がって、そんな嫌がってる俺をじいちゃんが毎日毎日俺のペースで立ち止まったり、急に走り出したりする俺を必死で追っかけたり、行ったり来たり、なんとかして、必死でなだめすかしながら連れて行くところから始まったのだった。
園についても一向に泣き止まない俺にじいちゃんはいつも申し訳なさそうにずっと手を振り続けながら帰っていったのを憶えている。そこでの俺は誰ともしゃべらないし、一切の遊戯に無気力を貫いていたし、飯時になってもほとんどのものを口につけず、何か悟り顔の年配の保母や園長などが俺を優しく諭すようなことをしようとしたならば即座に園中に聞こえ渡るように泣き叫び、同時に渾身の力で暴れまわったりしていた。
当然のように俺は、追い出される。母が頭を下げ、じいちゃんも頭を下げる。俺は何も言わない。
何故だろうか。それが何故だったのだと今問われても俺は答えられない。理由は無いのだった。そう思う。おれはずっとそう思っている。何故なのか。わからない。それがわからないことに俺自身がずっと苛立っていたのだとしかいえない。
時間はしかし確実に流れるから、俺も小学校に上がる年齢になる。初日から俺は渾身の力で登校を拒否した。入学式当日の朝の俺は完全に悪魔だったと思う。泣きじゃくり、暴れ周り、叫び続けた。すでに近所でも俺のイカレっぷりは周知のことで近所のババア連中の昼間の話題をさらっていたが、この日からはもはや誰も俺の話題を口に出す者もなくなった。俺が俺の家だけの問題ではなくその集落の汚物となった日だった。冗談にならないからだ。イカレているし、その理由が誰にもわからないのだ。
しかし俺は突如学校に通いだす。俺は何故か一切の抵抗をやめた。有る日急に俺は無になった。やっぱり誰にも何故か判らないけど、俺は無になり学校に通いだす。
学校に行く、机に座る、無になる。家に帰る。無になる。学校に行く。無になる。家に帰る。無になる。無になる。無になる。無。大人しくなった俺は地元の少年サッカーに入れられる。無になる。書道教室に通わされる。無になる。ピアノを習いだす。無になる。2年生になる。無。3年生。無。4年生。無。ずっと無。
でも、突然また俺が壊れる。有る日学校で壊れる。授業中に急に立ち上がってイスを振り上げて、教室の後ろのメダカの水槽をぶち破る。ガラスが割れて水がドバっと溢れ出す。え?ってなってる水槽の近くの子を睨みつける。俺はガラスの破片を掴みそいつの眼球に突っ込む。グムニュ。ってなる。そのままグリってする。誰かが甲高い声で叫ぶ。俺は割れたガラスの水槽を両手で持って教室の真ん中の方に放り投げる。グシャリ。ドンくさい誰かの頭にグササー、グシャリって刺さりはまる。傷口にメダカが跳ねる。ピチピチ、ピチピチッっつって。うへへって俺は笑う。