なぜ「教職員だった」ではなく、「教職員を自称する者」と表現したかって?
「へー」
「まあ子供にモノを教える立場としては観ておいて損はないだろうと思って」
「食育の中でも、命を食べることに焦点を当てた作品でね。子供に自分で考える力を与えている」
「はあ」
その過程で紡がれる言葉、振る舞い、価値観、どれをとっても教職員のそれだ。
上手く言えないんだが、俺が知っている教職員という人種は、もっと人間くさい生き物なんだ。
身なりは整えても高潔さとは無縁で、地に足が着いているから靴底は泥まみれ。
教職員といっても色々あるだろうけれど、現場で生きる人間は大なり小なりそういうもんだろう。
だが、その客は違った。
酷く不気味に思えたが、それでも俺は水飲み鳥に徹し続けた。
この客が実際のところ何者であれ自分には関係のないことだし、やることだって変わらない。
実際に教職員をやっている人間も、自分のことを教職員だと言っているだけの人間も、赤の他人である俺にとっては同じなんだから。
13人の客、その2人目は酒造りに関係した仕事をしているらしい。
この客もまた、本当に酒造りに携わっているかは怪しい人物だった。
「うーん観たことあるような、ないような……あらすじを言ってくれたら思い出すかもしれません」
「酔っ払ったサラリーマンが、特殊部隊とかヤクザ相手に大暴れする邦画なんだけど」
「すいません、その説明で思い出せないなら俺の記憶にはないです」
客は映画に出てくる酒が、いつも扱いが悪いことに腹を立てていた。
「映画業界の奴らは、酒を酔っ払って物語を動かすだけのツールだと思っている。酒には職人達の涙と汗が文字通り入っているのに」
客はそう愚痴りながら、酒の色んな種類や製造方法をくどくど説明し始めた。
「こう、素手でわさわさ~ってやるわけよ。衛生面とか気になるかもしれないけど、菌を増やすためにあえてやって「るの」
「はあ……」
「麹の近くには仮眠室があってね。具合を確かめるため、すぐ近くの部屋で寝泊りしているんだよ」
酒が飲めない俺は水飲み鳥になるしかない。
ティーンエイジャーが酒について言える事は限られている。
仮に飲める歳だったとして、この客はビデオ屋のバイトに何を期待しているんだ。
ひょっとして、現在進行形で飲んでいるんじゃないのか。
そう思って鼻をすすってはみたが、その客からアルコールの香りは漂ってこなかった。
むしろ酒を飲んでいてくれた方が納得はできた。
「酒税法も細かく設定されてる割には、みなし制度があったりガバガバすぎる。そのせいでストロング系とかの安い悪酒が出まくって、それを持て囃すアル中が蔓延って一般人を困らせるんだ」
こっちも今まさに困っている状態なんだが、この客には分からないようだった。
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