目処は立った。
こういうのには慣れている。
シマウマ先生の授業において、課題レポートの評価は成績の5割を占めるからだ。
補習を避けるための小手先(ノウハウ)は、望むと望まざるに拘わらず鍛えられる。
「さて、まずは条件Aから始めるか」
ここでBマイナスは手堅く取れる、レポートの作り方を説明しよう。
まずはテーマを決める。
いわば俺はそのテーマ探しから漠然としていたので苦戦していた。
ここをハッキリさせておけば、そのための資料集めや、最終的なゴール地点も自ずと見えてくるだろう。
例えばシマウマ先生は、現代社会にも根付く普遍的な問題提起が好物だ。
後は関係のありそうな歴史的背景を添え、科学的根拠で味付けすればいい。
そのゴマすりこそが、ウマ目のホミノイドを満足させるのに欠かせないウマ味調味料なんだ。
それでも建前上は科学や社会のためっていうお題目があるから書けるけれど、今回はそうもいかない。
より繊細で、より大雑把な作り方が要求される。
「いや、この寝起きの低血圧は条件Aではなく、どちらかというと条件aだな。だから、これは、ここと……」
パズルを組み立てるのに大事なのは、ピースの形を把握することだ。
記憶の断片を探り、それらの何が、何と関係があり、どのように繋がるか。
「あの日は何時ごろだっけ、確か……レバノン料理を食ったよな。いや、レバー料理だったけ。あと飲み物は何だったっか……」
集めた情報を憶測に基づいて取捨選択し、打ち立てた仮説を状況証拠で裏付ける。
そして実際に起きたことと結びつければ、その原因には可能性が広がっているんだ。
だが、この超個人的な答え合わせに、権威ある体系やエビデンスは必須ではない。
この法則を利用して、テレビのチャンネルと音量を10に合わせる人間は俺しかいないのだから。
こうしてパズルを組み立てること30分。
出来上がったレポートを、しみじみと眺める。
何気なく利用している公式や理論も、見た目に反して試行錯誤の末に生まれたのかもしれない。
だが達成感に浸るのは、もう少し先だ。
それには実証が不可欠だ。
俺はカレンダーをめくり、来月の日付にデカデカと星形の印をつけた。
≪ 前 というか、そもそも俺が質問したのはシマウマ先生の教育スタイルについてではない。 生徒が自分の意図を理解していないと嘆く割に、あっちも生徒を理解できていないじゃない...
≪ 前 「まず最初に断っておくが、私はあの方法を良いやり方だとは思っていない」 俺は先ほど自分を当てなかった理由を知りたかっただけで、やり方そのものについては構わないこと...
≪ 前 「カジマ」 しかし呼ばれたのは、その視線を突き抜けた先、俺の真後ろの席にいたクラスメートの名前だった。 「お前がやってみろ」 「えー、自分っすか?」 目が合ったとい...
≪ 前 それから昨日のようにバス停につくと、俺は日課を怠ったことを思い出し、後悔する素振りをした。 「あー、しまった」 前は自然と出てきた言葉だったので、意図的にやった今...
≪ 前 今朝から俺の身に降りかかっている謎の不調、不幸。 それらに対する漠然とした気がかりは、放課後になっても俺の中で燻り続けている。 原因がハッキリしていないからだ。 ...
≪ 前 「なんだよ、その“マフィンの法則”ってのは」 「マーフィーの法則ね」 タイナイが言うには、マーフィーの法則というのは“推測可能なことは起こりうる”って前提に基づい...
≪ 前 「正直、自分でも確信がないんだが……気がかりなことがあったんだ」 あまりにも個人的なことだったから気恥ずかしかったが、俺は思い切って言った。 「俺はテレビのチャン...
≪ 前 「ああ、しまった」 思わず呟き、自分自身を嗜める。 忘れていたのもそうだが、そのことを「しまった」と思ったのも腹立たしい。 ふと、待合室に備え付けられた時計を覗く...
チャンネルを10にして、音量も10にする。 俺がテレビの電源を消す前に必ずしていることだ。 なぜ、そんなことをするかって? さあ、俺にも分からない。 お気に入りの番組が10チャン...
久しぶりに見たわ
もうみんなつまんないって思ってるしやめよ?
昔にくらべてけっこう読みやすくなってない?
ごめんつまんなかった もうやめよ?
≪ 前 勝負は決戦前夜から始まる。 その日の俺は学業を終えた後、夜遅くまでバイトに従事していた。 家路に着く頃には、肉体的にも精神的にも神経的にもクタクタだ。 時間も真夜...
≪ 前 我ながら、何とも支離滅裂な夢を見た。 夢とは得てしてそういうものだが、寝覚めの悪さは否定できない。 思考速度が鈍り、倦怠感は体全体にのしかかる。 この気だるさは低...