2020-09-27

[] #88-10「マスダの法則

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目処は立った。

俺は家に帰ると、レポートをまとめる作業に取り掛かった。

検証で書いたメモを、順繰りにノートへ貼っていく。

こういうのには慣れている。

シマウマ先生の授業において、課題レポート評価は成績の5割を占めるからだ。

補習を避けるための小手先ノウハウ)は、望むと望まざるに拘わらず鍛えられる。

「さて、まずは条件Aから始めるか」

ここでBマイナスは手堅く取れる、レポートの作り方を説明しよう。

まずはテーマを決める。

いわば俺はそのテーマしか漠然としていたので苦戦していた。

ここをハッキリさせておけば、そのための資料集めや、最終的なゴール地点も自ずと見えてくるだろう。

次に、それを採点する人間性格を知っておくこと。

例えばシマウマ先生は、現代社会にも根付普遍的問題提起が好物だ。

後は関係のありそうな歴史的背景を添え、科学的根拠で味付けすればいい。

そのゴマすりこそが、ウマ目のホミノイドを満足させるのに欠かせないウマ味調味料なんだ。

それでも建前上は科学社会のためっていうお題目があるから書けるけれど、今回はそうもいかない。

このレポート寸評するのは、それを作った自分自身

より繊細で、より大雑把な作り方が要求される。

「いや、この寝起きの低血圧は条件Aではなく、どちらかというと条件aだな。だから、これは、ここと……」

パズルを組み立てるのに大事なのはピースの形を把握することだ。

記憶の断片を探り、それらの何が、何と関係があり、どのように繋がるか。

あの日は何時ごろだっけ、確か……レバノン料理を食ったよな。いや、レバー料理だったけ。あと飲み物は何だったっか……」

集めた情報憶測に基づいて取捨選択し、打ち立てた仮説を状況証拠裏付ける。

そして実際に起きたことと結びつければ、その原因には可能性が広がっているんだ。

これが学校レポート作りならCすら貰えないだろう。

だが、この超個人的な答え合わせに、権威ある体系やエビデンス必須ではない。

この法則を利用して、テレビチャンネルと音量を10に合わせる人間は俺しかいないのだから

…………

こうしてパズルを組み立てること30分。

「やった、これで理論上は矛盾していない!」

暗中模索だった事象は、真実へと導く法則昇華した。

出来上がったレポートを、しみじみと眺める。

いざ纏まったものを読み返すと、あっけないものだ。

何気なく利用している公式理論も、見た目に反して試行錯誤の末に生まれたのかもしれない。

だが達成感に浸るのは、もう少し先だ。

この法則が、本当に法則足りえるか。

それには実証が不可欠だ。

俺はカレンダーをめくり、来月の日付にデカデカと星形の印をつけた。

あの時と同じ10日、実験はこの時しかない。

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