なぜかそう思っていた。
そんな信仰にも似た確信は、大学を卒業して就職したあたりから、徐々に現実味を失い、曖昧にぼやけたビジョンへと変化していった。
学生時代から数えて4年の付き合いになる彼氏とは、将来の話は何度かしているし、お互いの両親にも紹介済みだ。
このまま順調にいけば、あと数年もしないうちに結婚すると、私達も周囲も、皆そう思っていた。
けれど、交際が5年目に差しかかって間もないころ、事件は起きた。
恋に落ちたのだ。
私が。
よくある話だ。
そんなとき、自分の様子を気にかけてくれ、優しく声をかけてくれる、年上の先輩に、簡単にときめいてしまう。
彼の左の薬指に、指輪が光っていたとしても。
はじめはただの憧れだった。
寂しさが思いに拍車をかけたのか、どんどん好きになっていった。
向こうは恐らく、私の好意に気づいている。
それでいて、優しい態度を取り続けるし、話すときの距離も近い。
こっちが勘違いしてしまいそうになる発言が飛び出すこともある。
客観的に見れば、自分に気がある若い女をからかって、あわよくば良い思いをしようとしているクソ野郎かもしれない。
でも会えばときめいてしまうし、相手がクソ野郎だという確証もないのに距離を置くことができない。
彼氏とは続いている。
向こうも馬鹿ではないので、私の変化を察知したのか、ときどき探りを入れてくる。
けど適当にかわせば、それ以上聞いてくることもない。
少し前に一度だけ、先輩のことを思いながら、彼氏とした。
名前を呼びそうになって、ほんとにこんな漫画とかドラマみたいなことってあるんだな、とぼんやり考えていた。
それ以来、罪悪感で彼氏とはしていない。
以前にもセックスレスになった時期があったから(そのときは別の原因があった)、向こうはそれに関して特に触れてこない。
最低かもしれない。
既婚者のほうはとりあえず置いといて、さっさと彼氏と別れてやれ、と思う人が大半だろう。
少なくとも数ヶ月前の私だったら、そう思ったはずだ。
毎日悩んで、好きな人を諦める方法だとか、不倫した女が辿る末路だとかをネットで検索してはため息をついている。
このまま何事もなく終わればいい、という気持ちと、
相手のことが好きでたまらなくて、もっと近づきたいという気持ちの間で揺れて、葛藤している。
でも、本当の幸せってなんだろう?
先輩とは、もうじき会えなくなる。
ただ会う機会が全くなくなるわけではないし、連絡先は知っているから、コンタクトを取ろうと思えば簡単だ。
この状況で私は、自分の気持ちを隠して、恋心を胸の奥にしまって、なにもなかったことにできるだろうか。
もし万が一、向こうからなにか行動を起こしてきたとしたら、私はそれを拒絶できるのだろうか。
恐ろしくて、考えたくもない。
さっさとその先輩にコクって振られたらええんや。