何かの信者として緩い一体感を楽しむことでの現実逃避は、終わりを告げた。
寝ている間に悪い夢を見たことが決定打になった。
研究室のようなところで、学生が3人試験を解いている時に、俺ともう1人女性がそれに付いていなければならないシチュエーションだった。
スマホもいじれなくて、夢だからなぜいじれなかったのかはわからないが、紙媒体でも読んで時間を潰すしかないのだが、俺はそういう時に時間を潰せる紙媒体を鞄に入れておくことを、いつしかしなくなっていた。
以前は、本を一冊以上、絶対に鞄に忍ばせていたのが、重いしどうせ読むこともないからといつの間にか持ち運ばなくなっていた。
だから、その白基調の部屋で優秀な若者が目の前にいるのを前にして、やることがなかった。
女性が、見かねて何か読むものを探してくれるのだが、ペラペラのお酒の広告くらいしかなかった。
そんな夢だった。
知性を求められる場所から逃げ続けて、そんな場所など存在しないことにして、ネットの掲示板に入り浸ったり、風俗嬢と現実逃避の共犯者になったり。
毎日のようにされるゲーム実況が、それこそ毎日のようにされるこどか、クリーンなインターネットの時代に取り残された信者たちの依代だったのが、ヒーローは倒れた。ヒーローも倒れることがあるのだと、信者は初めて知った。
永遠なんてない。
現実から逃げ続けても、いつか逃げた結果を突きつけられる時が来る。
みんな何かに逃避したり依存しているだけで、それでいいのかもしれないよ。
でも俺は、30歳が見えて来た俺は、なんかまだ自分に納得できないんだよな。
こんなもんかって、しっくり来たり、しないよ。こんなもんじゃねぇって心のどこかでずっと思い続けてる。
このままだと自分の人生をやり切った感がないまま老いてくだばっていく気がする。
パッとしない女と付き合って結婚してパッとしない子供ができるなんて、そんな人生嫌だと10代の頃に思って、なんだこの有様は。
意識が高くなりたいけじゃない。
ただ、もう少し真っ直ぐな人間になりたい。いや、真っ直ぐなんて贅沢な理想も掲げないから、せめて歪でも倒れないでいたい。
読める本がまだあるだろうか。