8月の終わりが近づくたびに思い出すことがある
8月31日の朝、ラジオ体操が終わった後に近所の団地の公園に行くとあの子がいる
普段は話すことも遊ぶこともないけど、いつの頃からか8月31日だけは朝から日が沈むまで二人で遊んだ
近所の駄菓子屋に行ったり、公園の生ぬるい水道で足を冷やしたり、別の公園の滑り台を滑ったりしているうちに
さっきまでは焦がすほど熱かった風が涼しくなり、公園の灯がともり始めるころには、団地の公園に夕餉の匂いが漂い始める
二人で並んでブランコに座って、何を話すでもなく、ただゆっくりと揺れるブランコの上で8月31日が終わることを惜しむ
あの子がブランコを降り前に立ち、黒目がちの笑顔で「じゃあね」と言う
続いてブランコを降りながら「うん、またね」と小さく応える
走って帰って行くあの子の背中を見ながら、また来年かなと帰路についた
次の日、2学期が始まった学校へ行き、廊下の突き当たりにあるあの子のクラスの前を不自然に行き来する
覗き見た教室に姿を見つけられず、どうやら今日はいないようだと戻る廊下で「えみちゃん引っ越したんだってね」と話す声が聞こえた
直感的にあの子だと気づき、初めて知った名前のあの子が引っ越したことを知る
どこへ引っ越したのかも、そもそも団地の子だったのかも知らないが、もう会えないと思うと悲しくなった
けろけろけろっぴの便箋には、引っ越しの日、最後にどうしても遊びたかったと書いてあった
出発を夜にして欲しいとおかあさんに頼んで、友達の見送りもないまま長野へ出発したそうだった
知らない土地から届いた手紙には期待したような言葉はなく、なんて返事を書けばいいのかわからないまま、机の小さな引き出しに忍ばせていたその手紙もどこかへ行ってしまった
けろけろけろっぴかわいい。。
主人公の性別が書いてないのがミソ