19回目の誕生日、斎藤さんに会った。もう二度と会うことはないと思っていたのに再会は突然訪れた。
今日で授業が終わって、夏休みだから実家に帰ろうと高速バスに乗った。バスは夏休みを利用して遊びに来た中高生やらサラリーマンやらでいっぱいで、後から乗った私は仕方なく補助席となった。そしたら隣が大学生っぽくて、寝たふりしておっかかってた。(乗った時は毎回して、反応を楽しんでいる)
その人はすごくいい匂いで、落ち着く匂いの中にムスクみたいな官能的な匂いがあって、どこかで嗅いだことのある匂いだった。考えていたら相手ももたれかかってきて匂いが強く鼻をかすめる。薄いTシャツから熱が伝わってきたこの匂いはもしかして。。
「斎藤さんですか?」
少し間が空いて、そうだよと返ってきた。少しびっくりした顔をした斎藤さんが、可愛かった。奇跡的な再会をして、私が辞めてからバイトで新しい人が入ったとか、実習のことだとか、ピザ屋の宅配のバイトがしたいとか。私が話をふると斎藤さんは時々こちらを見ながらメガネを触ってぼそぼそと喋って、相変わらずネガティブな話をずっとされた。なんとなく受験を受けてトップ校に入学して、運良く国立大に入ってだらだらと夏休みを送る斎藤さん。平凡な斎藤さんが、殺したいくらい羨ましくて、いい匂いがして愛おしかった。私は斎藤さんが大好きで、そうと知ってても冷たい斎藤さんに絶望していたんだった。
けれど不甲斐なくて賢くて運がよくて爽やかで脆くて、斎藤さんは素敵だった
時間はあっという間に過ぎて、下車する時がきた。大学に寄るって言うから一緒に降りると言ったのに自転車で来たからと断られて、仕方なく家の近くで降りた。
大学へは車で行ってるの知ってるのに。やはり斎藤さんは冷たかった。お茶もしたかったのに。海も行きたかったのに。
付き合ったってどうにもならない。将来性もない。つまらない人だ。つまらないの根底にあるのは中学で起こった彼へのイジメらしい。私はいじめを受けて、デビューを果たしてきた人間だ。
だからこそ自分は選ばなかった平凡な道に進んだ斎藤さんが大好きで、忘れられなくてこんなところに気持ちをぶちまけてしまいたくなる。