「ねえねえおじいちゃん。テレビ見て。コミックマーケット180だって。おじいちゃんも昔はこれに出てたんでしょ?」
「おお、懐かしいのう。昔はよくテレビ取材が来ていたもんだが、最近はさっぱり聞かなくなっていたからな」
「ねえおじいちゃん。昔は有明で、何十万人も人が来ていた大きなイベントだったんでしょう? 今はどうしてこんなに小さいイベントになっちゃったの?」
「ああ、東京オリンピックっていうのがあったんだっけ」
「オリンピックをやるときに、二年くらい前から有明のビッグサイト他、東京近辺の展示場をお上が全部抑えてしもうたんじゃ。コミケだけじゃない。他のイベントも規模を縮小するか、中止になってしまってのう」
「でもオリンピックが終わったら元通りなんでしょ? 何がいけないの?」
「他の物産展なんかは戻ってきたがのう。コミケは、無理だったんじゃよ」
「どうして?」
「まず同人専門の印刷所が、2019年当たりからばんばん倒産してしもうた。会場が小さくなり、2020年は中止になったせいで、サークルが本作りをやめてしもうてのう」
「なんで? 2020年すぎたらまたサークル活動すればいいんじゃないの?」
「今はpixiv等で漫画は公開できるからのう。本が出せないなら、とそちらに流れた作家は、そのまま、まあいいか、とサークル参加をやめてしもうた人も多かったんじゃよ。コンスタントに本を出していたサークルも、年間のサークル参加と原稿執筆ペースが崩れてしまったことで、脱オタした人もおってのう」
「そんなものなのかなあ」
「歴戦の古株サークルなんかはのう、もう何十年と年間の生活サイクルにコミケが組み込まれてきたわけじゃよ。ずっと続いていたものがふっと消え去ると、数年後に元には戻れない人もおるんじゃ」
「つまりオリンピックが終わった後に、サークルさんが戻ってこなかったってことなの?」
「そうじゃの。何十年と続いてきた流れを一度切られてしまった。もう一度すぐ元通り、とはいかんかったんじゃ。他の展示会は、企業だから、戻ってくるが、同人はあくまで参加は一般人だ。趣味だ。参加する義務なんてないからのう。印刷所もつぶれ、業界の体力も落ちてしもうた。気づけば、数十年前に逆戻りじゃ。五十万人がいたコミケは、もう戻ってこないんじゃろうのう」
「だから今はクールジャパンじゃなくて、クールチャイナ、とか言われているのね」
「そうじゃな。チャイナマネーはすごかったからな。ああ、わしもクールジャパンの日本に転生とかできんかのう」
「なにそれ」