ぬるい空気の居酒屋で懐かしい曲が流れ始めて、意識が耳に集中した。
咀嚼が思わず遅くなって、目の前のアルコールで無理やり飲み下す。
一人だったらきっとそのまま聴き入っていただろう。
車の中で流れているのをずっと聴いていて、
高校生当時の流行りの歌よりも自分の中に響いたそれらの曲が気付けば好きになっていた。
周りとは話も何も合わなかったけど、構わなかった。
私はそれでも好きだと知ったから。
だけど、夢を食べて生きている人とは一緒にいられないことも知った。
でも今も時々開拓しながら、好きな曲を増やしている。
車に興味を持ったのは、次の彼氏の影響だった。
免許も持っていなかったけど、仕事の傍ら教習所に通い、自分の車も持つようになった。
アニメを観るようになったのもこの彼の影響だった。
だけど、私がいることが当たり前と思うような人相手に、
その先の未来を描くことは出来ないことも知った。
でも、ドライブは相変わらず好きだし、新規アニメの情報も欠かさず見ている。
いつも本を持っていたその人は、漫画から小説まで色々と読む人だったから
会うたびに借りては嵌っていった。
中古や図書館も利用して、読書数は一時期年間200冊にまでなったほど。
私はそれらが時々驚くほどの感動を生むことを知ったから。
だけど、甘えきれず「好き」をセーブして付き合うことは寂しいことも知った。
でも、好きになったシリーズは今でも続いてて、図書館通いも頻繁なまま。
コンプレックスにも相性があること。
交流のあったありとあらゆる関係性の彼らは私の中でそうやって生き続け、
好みや傾向となって今も私の一部になっている。
「次、何飲む?」
隣で夫が空いた私のお猪口へ徳利に残った日本酒を注ぎながら聞く。
元々日本酒など飲まなかった彼が、私の勧めで飲み始め
今では私より日本酒好きになっている。
「夏酒、限定の」
私も彼らの中でそうやって生き続けているのだろうか。例え良くても悪くても。
そうだとしたら、少し嬉しい。