長かった無職期間も終わり、新しく入社した会社で仕事の引き継ぎを受けている。小さな会社だが、人は良さそうな印象を受ける。
が、俺の前任者があまり仕事のことを知らない。突っ込んだ質問をすると、それはわからないという。どうも、この仕事をやって半年も経っていなさそうなのである。
それに、いろんな人たちが新人ばかりらしい。小さな会社でも創業して随分経つのに、会社の生え抜きのような人がいない。
そしていろいろなところに、今は社にいない人たちの名前が残っている。
俺に与えられたパソコンには大量のメールが残っているが、そのメアドの持ち主だった人が前任者の前任者で、実質的な前任者だったようだ。
前任者があまり仕事を知らないからその大量のメールから俺がやらなければならなさそうな仕事をサルベージしているが、その中の一つに見つけた。
実質的な前任者を含む何人かの社員がお客をまるまる引っこ抜いて独立しようとしたらしき痕跡を。
まぁこれでいろんなところに筋が通る。
その独立がどのくらい成功したのかはわからない。だが、現に人はいないし、ほとんど仕事は引き継がれていない。
つまり、会社は今興亡の瀬戸際にあることがわかる。どうりで俺のような無職歴の長い職種も業界も未経験(一応勉強したので業務知識は割とあるつもり)を雇ってくれるわけだ。
こういう時こそ経験豊富な人材を雇うべきだろうけれど、そういう人なら裸足で逃げ出しそうな惨状だ。後の無い無職の俺の方が辞めないと踏んだんだろう。だが、社長は間違いなくギャンブラーだ。
俺としては、この惨状で沈みかけた船に見えても辞めるわけにはいかない。いろいろあって職歴が穴だらけなのだから、ここで一つちゃんとした職歴を残さなければ人生が危うい。最悪会社が潰れたとしても、その旨を履歴書に書けるようにしなければならない。会社が潰れた時の履歴書の書き方とか知らんが。
今まで歯車みたいな仕事しかしたことがなく、それがどうにも性に合わずに職を転々としてしまったが、今の仕事は実質的な前任者からのサルベージを好きにやらせてもらえるので結構楽しく感じられる。実質的な前任者のパソコンに残った形跡から必要な仕事を割り出していくのが面白すぎる。
実質的な前任者はかなり幅広い仕事をやっていたようだ。独立を考えるのも納得ができるほど。だが、お前が捨てて行った仕事は俺が拾わせてもらう。