これ以上被害に合われる方が出ませんように
(続きです)
診察室を出ると、どっと疲れが出た。
病気を治すために来ているはずなのに、一体何をしに来たのか分からなくなってしまった。
そして待合で待たされることになるが、ここで初めて「本棚の本は自由に手に取って構わない」という「許可」をいただいた。
本棚の雑誌は、どこの病院にも置いてありそうなラインナップだ。週刊誌、ファッション誌、経済誌が数点。
書籍に関しては、著者が数名に限られていることに気づいた。
こちらからは聞きもしないのに、「業界では有名な先生方」で、「その分野の第一人者」なのだと教えてくれた。
無理にとは言わないが、気に入ったら買うと良い、とも言われた。
具体的にどのような会話をしたかは覚えていないが、内容が役に立つから、というよりも、「その先生がすごいから」と勧められたことが印象に残っている。
偉い有名な先生にはペコペコする。
それは勝手だが、自分も同じように周りからペコペコされたくって仕方がないのだ。
上には媚び、下の患者は金を運んでくる物体くらいにしか思っていない。
本人は隠しているつもりかもしれないが、人を選別して馬鹿にしている態度は見え見えである。
頭はいいはずなのに、なぜこんなことも理解できないのであろう。
それまでの辛抱だ、と言い聞かせながら、また愛想のない待合に戻され、そこで待ち続けた。
何しろこちらは、健康保険証を始め多くの重要な個人情報が「人質」に取られているのだ。ああいう人間性を疑う医者だ。
大げさかもしれないが、それらを使ってどこで何をされるか分からない。用心するに越したことはない。
どうせ暇だったんだろうが「たくさんの時間を割いて」「非常に細かく説明をしてくれたこと」を、慇懃無礼スレスレのレベルで伝えてみた。
やりすぎだっただろうか。気を良くしたらしく、見送りにわざわざ出てきやがった。
お前の患者の病気はまだ治ってない。何をそんなに嬉しそうにしていやがる。
笑わなきゃやってられない。
(続く)