2015-08-06

暑くて思い出した

「S、白血病でもう長くないんだって。」

そんなメール高校の時の部活の先輩から届いた。S先輩が入院しているのは聞いていた。でもそこまで悪いとは思っていなかった。最後に会った方がいいんだろうかってすごく悩んだ。

S先輩は僕が高校の時の部活の先輩だった。S先輩とは特に仲がいいわけじゃなかった。でも、一度だけS先輩は泊まり大会に行ったときに、僕に彼女がいるのを知ってて、彼女とする前に私と予行練習しておかない?と誘われて一緒に布団で寝たことがあった。僕はすごくセックスたかったけど、結局しなかった。童貞だった僕はそこからどうすればいいかわからなかった。

高校卒業してから県外の大学に行った時に、先輩とは一度飲んだことがあった。彼女就職していたから、話していることはもう社会人な感じで、まだ学生だった僕はよくわからないけど別の世界に行っちゃったような気がしてた。それから特に会わなくなってたけど、別の先輩からは時々近況を聞いていた。結婚したんだってとか、離婚して実家に帰ったんだってとか、すごくいい人が見つかって再婚したんだって、とか。なんか色々大変だったんだなって思った程度だった。

付き合ったわけではないし、特に何かあったわけでもないけど、もうすぐ絶対に会えなくなるとわかっててそのままにはできなかった。僕は仕事を休んで会いに行くことにした。

お見舞いに行った日はとても暑い日だった。お見舞いに何を買っていけばいいのかよくわからなかったかさくらんぼを買って行った。病院ホスピスだった。

病院はとても静かだった。受付で名前を出して、お見舞いにきたのですが、と言ったら病室から彼女の夫が迎えにきてくれた。

はじめまして高校の時の部活の後輩で今日はお見舞いに来ました。急に来てすいません。

と話すと、「Sに言ったらびっくりしてたけど、ぜひ会ってあげてください」とにこりと笑って病室へ歩いた。病室で会った先輩はすごく痩せて、薬の影響で薄くなった髪を隠すための帽子をかぶっていた。昔会った時の健康的で活発な感じの姿はなかった。

おひさしぶりです、今日仕事で近くで会議があるので寄ってみました。とできるだけ笑って話した。正直僕はびっくりしてたんだと思う。でもS先輩は「ひさしぶりだね。こんな姿でびっくりしたでしょ。」と笑いながら言った。なんて言っていいかわからなくて、外はすごく暑いですね、さくらんぼ買ってきたのでよかったらどうぞ、と言った。外は暑いですねって言ったのを後から後悔した。先輩が外に出られるわけがないのだ。それからどんな話をしたのか覚えていない。たぶん僕の近況やら高校の時の話とか、部活にいた人たちの近況の話だったと思う。それ以外に共通の話題なんてなかったからだ。

そろそろ会議に戻りますね、と言って帰ることにした。「会いに来てくれてありがとう、すごく嬉しいよ。また来てね。」先輩はそう言ってくれた。また会いに来ますね、そういって病室からエレベーターまで先輩の旦那さんが送ってくれた。「Sはすごく喜んでましたよ、今日は体調も良くて、嬉しそうでした。ぜひまた来てくださいね」と言ってくれた。こちらこそ急に来てしまってすいません。また来ます。と言ってエレベーターで別れた。

病院を出てから色んな事を考えた。死が間近にある人に対してどう言えばよかったんだろう。ホスピスに入ってる人に元気になってくださいねっては言えなかった。あんな会話でよかったんだろうか。なんかもっと言わなきゃいけないことがあったんじゃないだろうか。

そのあとS先輩は亡くなった。お葬式に行こうかと思ったけど、旦那さんや、残された2人の子どもを見ることが辛すぎて行けなかった。

そんなことを暑い日が来ると時々思い出す。

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