すごい話を聞いたので、覚え書き。
先日 母の実家に帰った。祖父と祖母は健在だけど、80代の祖父は脳梗塞の後遺症で右半身が少し不自由で、日常生活は祖母が面倒をみている。
もともと口数の少ない祖父だったが、身体を患ってからはより口数も減って意思疎通がなかなかうまくいかなかったり、
身体が思い通りにならないことからもイライラしたりして祖母とよく衝突している。それでも長年連れ添った夫婦。
老々介護の現状は大変ではあるけれど、周囲に支えられながら田舎でのんびり暮らしている。
時間を持て余しているときは古い写真を整理するのが良いと母が提案して、大きな段ボールを引っ張り出してきた。
きれいな人で、いかにも昭和美人といった感じ。写真の裏には日付と女性の名前が書かれていた。
祖母はその写真を私に見せ、「ほら、おじいちゃんの高校時代の彼女。」と話し始めた。
祖父と祖母はお見合い結婚。結婚後は田舎を離れ東京で暮らした。
祖父が高校時代からお付き合いしていた貴女は病弱で、何度も入退院を繰り返していたらしく、親兄弟に猛反対され結婚を諦めたそう。
でも貴女のことが忘れられない祖父は結婚後も手紙をやりとりしたり、貴女が上京の折には上野まで会いに行っていた。
そのことを祖母は全て知っていた。知っていて知らないふりをしたそうだ。
「いとも簡単にあんな見え透いた嘘を言って。」と笑っていたけれど、当時の心境はどのようなものだったのだろう。
写真は祖父が後生大事に隠し持っていたものである。祖母はそのこともしっかり知っていて、知らないふりをして捨てずにとっておいた。
忘れられないあの人の写真を後生大事に……なんてベタな話がまさか現実に、しかもこんな身近にあったとはね。すごい。
そして その事実を知りながら、ずっと胸の奥にしまって、よき妻であり続ける祖母には感服するばかりである。あっぱれ。
「この人がおじいちゃんと結婚してくれていれば、ばあちゃんはこんなに苦労しなかったのかもね。」