母親がさっき出て行った。
車で中央高速道路に行きたいとか言ってたので、事故りたいのかもしれない
信じられないくらいどうでもいいのだけれど、やはり肉親だからなのか、30秒に一回くらい気になって作業にならない。
自意識過剰の悲劇のヒロイン主義で、自分は世界で一番不幸だと思っている
それをあまりに大げさに喧伝するので、じゃあいっそほんとに不幸になってしまえよと周りがげんなりするくらいだ
そして、すぐ死ぬという
メンヘラ少女が死ぬ死ぬ詐欺をするのはまだ可愛いが、60近いオバサンが死ぬ死ぬ言ってても、
「居間が汚いから綺麗にしよう、この机はこう使うものじゃないんだからいらないものは捨てよう」
と言っただけなのに、
まるで自分の人生すべてを否定されたかのように解釈して大騒ぎし、
無視すればわめき、反論すれば怒鳴るという有様で
本当に手がつけられない
しかしそもそも家事も嫌いだと言っているので、私が引き受けようとすれば
「せいいっぱいやろうとしているのに批判するのか!!」
となってしまう
本当に、どう扱ったらいいのかわからない
自分の思い通りの、夢の世界の住人を、周りが演じなければ、自分と周りすべてを否定する
そんな人間なのだ
そんな彼女と一緒に暮らすのがイヤでイヤで、大学に入ってから無理やり一人暮らしを始めた
自由になったものもたくさんあったし、不便なこともたくさんあった
全て勉強であり、収穫であった
大学卒業を機に実家に戻ったのだが、三日目にしてこのアリサマである
家を出ていた四年間で、妹はうつ病になり、父はより寡黙になっていた。
彼らが可哀想でならない。
妹も父も大好きだし、彼らとの生活はとても気楽で未来がひらけているように感じる
しかし、彼女が一人いるだけで、我が小さいウサギ小屋はとんでもない地獄と化すのだ
母親が出て行った。
事故って死ぬ気だという。
車のことを考える。
車がなくなるのは嫌だな。
母親が死んだあとのことを考える。
家計のことは何も引き継いでくれないし、家事のことも何も教えてくれないが
まぁそんな企業秘密にするものでもない、すぐどうにでもなるだろう
更年期障害を受け入れられない私たちがいけないのだろうか
父の必要以上にやつれた顔と、妹の体調不良を見て、私は考えるポーズをしている。
結論は出ているのかもしれない。