ひとまず現状を把握しておくため、俺たちはモーロックの言っていた場所へ向かった。
「本当だ……ヒトがいる」
さすがに皆でゾロゾロと行くわけにもいかないので、偵察に来たのは俺やキンタなどの機敏なネコ数名。
「ぜえ……ぜえ……ちょっと待って……休ませてください」
そんなに遠い距離でもなかったのだが、太っちょのケンジャは既に息も絶え絶えだ。
「肥え太ったお前には、ちょうどいい運動になったろ」
「ふう……余計なお世話ですし、別にそこまで肥えてないですよ。適正体重より2キロちょっと重いだけです」
それも、かなりのな。
俺も1キロばかり重くなった時は、家主がとても深刻な顔をしていた。
それからしばらくの間は、食事制限に加えて運動もかなりさせられたから身に沁みている。
1キロ重いだけでアレなんだから、その倍も重くなってるケンジャはよっぽどだ。
自分への話題を逸らすかのように、ケンジャは耳を澄ます動作に切り替えた。
「……」
「どうだ? 何て言っている?」
できれば杞憂であってほしい。
そういった期待も込めて、恐る恐る尋ねる。
ヒトが話していた内容によると、近々ここで大きな建物を作ろうという予定があるらしい。
そして、その作業は非常にやかましく、近隣のヒトをどう説得しようかと話し合っていたようだ。
ヒトですら嫌がるほど音……。
「ムカつくわね。そいつら、あたしたちのことはアウトオブ眼中なのかしら」
「どうやら以前から、この集会所は彼らヒトの住処だったらしいです」
つまり本来の所有者はヒトだから、俺達を追い出すのに理由なんていらないってことか。
一方的な主張だ。
「“以前から”だと? 我々のほうが昔から、ここにいるんだぞ!」
彼らから言わせれば、俺たちのいう“昔”よりも“ずーっと昔”ってことなんだろう。
それが具体的にどれ程かは分からないし、本当かどうかも怪しい。
だがヒトは俺たちより何倍も長生きだから、事実の可能性はあるが。
いや、もし嘘だったとしても、事態は大して変わらない。
ならば後は“強い者が勝ち取る”という、ネコ社会にも通じる道理によって縄張りの所有者を決めるしかない。
そして、それがどちらかなんてことは、実際に勝負するまでもなく分かりきっていた。
俺たちができる抵抗なんて高が知れている。
ヒトに目をつけられた時点で、この集会所は終わっていたんだ。
「いざ別の誰かのものになった途端に惜しくなって取り上げるなんて身勝手すぎる!」
「そんなことが罷り通るほど上等なのかね、ヒトってやつぁ」
ヒトにとって俺たちネコってのは、その程度の存在なのかもしれない。
皆もそれは理解していた。
故に、周りから漏れる仲間達の声は抗議ではなく、諦念からくる恨み節に近かった。
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