2018-09-12

この夏の、陽炎のような恋の話

私の恋は今日終わった。

恋というきれいな名前で呼べるような代物ではなかったけれど。

中高6年間で自分が想いを寄せることはあっても想いを寄せられたことはなかった私は、これから始まる大学生活に薄汚い期待を寄せていた。

オタクネタキャラという高校ときに抱えていた女子モテない二大要素を断ち切って、「ウェイサークルで楽しく過ごそう」とか軽く考えていた私の根拠のない自信は新歓で跡形もなく消え去った。

同じ卓を囲んでいた男子二人が、私の隣の女子にだけ「連絡先交換しようよ」と迫っていた姿を見て「私はここにいてはいけないんだな」とみじめにも感じてしまった。

趣味の合う人間はいない。

高校のノリは通用しないから、「ネタキャラ」というロールを演じられないから、人とどうコミュニケーションをとればいいのかまったくわからなくなってしまった。

失意のまま私は小規模なオタクサークルに身を寄せた。

一人の男性出会った。

よくしゃべる人だった。

自己紹介ときに聞いたハンドルネームをすかさずツイッター検索し、フォローして、DMを送って……。

情熱には驚かれたが、返事がきた。何度も。熱心にメッセージを送った。

「またサークルにおいでよ」の一言で、彼は私にとっての神様になった。

私はもうすこしこ世界にいてもいいんだなと思えるようになった。私の存在肯定してくれる異性が世界にいるんだと思った。

架空日記をつけたり、ツイートいいね欄をすべて遡ったりした。

神様お話できた日は、そのことをずっと頭の中で反芻していた。

神様の返事がもらえないときは、枕に顔をうずめて泣いた。

食事に誘ってもらったり、洋服を一緒に見に行ったりしてくださったときは、いきている、ここちが、しなかった。


でもある日、私は禁忌に触れてしまった。

神様神様じゃなくなった

性欲が溜まってて苦しいという旨のメッセージが来たから、私は、応じた

ホテルに行って、神様と、抱き合ったり、キスをしたりしたけど、実感がわかなくて、泣いてしまった

「好きです」と言うと、「ありがとう」と言われた

私の想いは受け入れられなかった

身体はこんなにも近くにあるのに、一番近い存在には一生なれないんだと自覚した

そのあと2度、そういうことをしたけど、やっぱり私は泣いていた

この三回、まったく神様のを受け入れられなかったから、「君の処女絶対奪うね」というメッセージは来たけど、そんなメッセージほしくなかった

私が欲しかったのは違う言葉だったのに、絶対にその言葉が飛んでくることはなかった

今日「暇ならホテルに行こうよ」と珍しく誘われた

いつもどおりのことをした

やっぱり今日も入らなかった

終わった後、「あのさあ」と神様は呟いた

「会うの、今日最後ね」

「新しい恋をするのに、いつまでもこういう関係続けるのもアレだから

「君の処女を奪えなくて良かった。また新しい恋を頑張って」

違う。新しい恋なんて、私は望んでない

新しい恋なんてそんなの、始めたくない

私は違う誰よりあなたに愛されたかった

「たいしたことないよ へいきへいき」

そんな風に慰めないで 笑わないで

割り切って笑い飛ばせるほど私は、軽い気持ちでこの関係に臨んでいたわけじゃなかった

最後に、あなたは、私が好きだったキスを今までのいつよりも長く、深く、してくれた

しないでほしかった だって忘れようと少しでも思ったのに、忘れられなくなるから

どうして、記憶に焼き付けようとするんですか。 やめて、やめて、やめてよ

でも、あなたは、私が失意のまま過ごしていた世界に色を与えてくれました

恋への期待を膨らませる私の心は、柄にもなくときめいていた

あなた漢字文字名前で来るLINEの通知が、ずっとずっと楽しみだった

通知を示すために画面が光るたび、胸が躍った

そのことを、私は忘れません

あなたはすぐに忘れてしまっても 私は

泣きながら打ってるから日本語おかしいかも ごめんね 文字が何重にも見えちゃって

最後に、

あなたの目を見てちゃんと「好きでした」と言えてよかった。

さようなら、私の愛した人

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