2013-10-21

学生時代から五年以上つきあった相手と三ヶ月前に別れた。三ヶ月間ほとんどプライベートでは誰とも会うことな職場以外に出かけず家で缶ビールを一人で飲んですぐ寝る生活を続けていた。相手とは交友関係が重複していて、そうなってしまうと共通の友人とは誰とも会う気がなくなってしまった。もう会えないと言われた時から、ずるずると自死の機会を先延ばしにしていた。毎日、早朝に目覚めるのに身体が硬くこわばって、動き出すのに時間がかかる日がしばらく続いた。


久しぶりに人と飲みに行く事になった。

一ヶ月だけ同じ職場で働く事になった歳の近い部下に打ち上げに行きたいと言われた。殆ど我々二人きりで仕事をしていて、他の人間を連れて行くという感じではなかった。優秀だが嫌みなところが全くなく、万人に好感を与える容姿をしていた。人手が少なくて困っていたときにずいぶん助けてもらったし、ひたすら褒めてのばした。人あたりがあまりにもよいため上司にも受けがよく、職場に来たばかりで縁もゆかりもない内輪のゴルフコンペに誘われていたほどだった。

他の人間なら何の気なしに必ずするような、学生時代サークルの話や地元の話を自分からは全くしてこないところが好ましかった。あとで複数の別の部下からテニスインターハイまで行った選手大学時代活躍していたという事を聞いた。こちらからその話をしても、照れて笑うだけで何も話が広がらなかった。そもそもこちらがそんな話に興味がないという事をわかっているかのようだった。よく話を聞くと知り合いではないものの前の恋人大学の後輩にあたる立場だった。つきあっていた当時の、特に学生時代お金もなかった頃の事を懐かしく話しているうちに打ち解けてきていた。

部下からFacebookにフレンド申請が来た。同い年の配偶者との仲睦まじいツーショットや同僚との飲み会での写真が並んでいた。新婚旅行に南の島に行ったという写真もごく最近更新されていた。そのときは全く気づかなかった。職場指輪もしていて、最初から既婚者と知っていたので油断していたら、飲みに行った店でビール3杯目を飲んだところで手を握られた。酒で浮いた手の甲の静脈をひたすら性的意図をもってなぞられたが、なぜか下腹部が急に痛くなり、それどころではなくなった。顔をしかめながら会計をしたら全額払うつもりが割り勘にされてしまった。その日は銀座で飲んでいて、東京駅まで歩くと言うと、ついて来て「手繋いでもいいですか」と聞かれた。「だめ」と言ったのに手をとられてそのまま駅まで歩いた。「どうして誰ともつき合わないんですか」と言われたときに、腹痛はピークに達した。「もてないから」と答えたような気がする。タクシー病院へ行こうと思い、「地下鉄から」と言ってJRの改札まで送った。「また飲みたいです」と念を押されて別れたあと、八重洲の公衆トイレで胃の中のものを全部吐くと、すっかり楽になってしまったが、タクシーで家に帰った。

タクシーに乗っている最中、こんな風にして前の恋人は誰かに奪われたんだろうかという事を考えていた。

三ヶ月間セックスをしていなかったので、とにかく部下とセックスをしたくてたまらなくなった。次に誘われたら、そのとき腹痛が襲わなければ、セックスをしない自信がなかった。

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