夕方は家族みんなで夕飯を囲みながら、居間ででテレビを見る。家はそんな古き良きお茶の間の風景みたいな感じだった。
俺の父親は、必ずと言っていいほどCMの合間にチャンネルを変えた。
バラエティ番組を見ていようが、アニメを見ていようが、CMの隙にリモコンをポチポチした。
兄弟で一斉にブーイングをしても、父親は「すぐ戻すから」といって聞かない。そして大概、ちょっと間に合ってない。
どうして俺の父親はこんなことをするんだろう。そう思ってた記憶がある。
俺が実家を出て数年。
気が付けば俺は、一人暮らしの部屋の中で、テレビに向けてリモコンをポチポチしていた。観ていたバラエティ番組のCM中の事である。
仕事で疲れていた。メールを観たくないからスマホはいじらなかった。
何となくテレビ番組を眺めていたが、さほど興味を持てなかった。何か面白いものは無いかと無意識に探っていた。
自分がクタクタになっている事に気付いた時、俺は昔の実家の食卓を思い出したのだ。
今になって初めて分かった。父親にとって俺達が観ていたテレビはつまらなかったのだ。
当時子どもだった俺達にチャンネル権を譲ってくれていたが、やはり少しは気分転換がしたかったのだろう。
今になってそんなことに気付くなんて、俺は親不孝だと思った。
今はスマホやタブレットで観たい番組を選べる時代だ。これからは心置きなく、好きなコンテンツを楽しんでもらいたい。
不器用で優しい父親に向けてそう想いを馳せていたが、ふと、実家に住んでいた兄弟からラインが届いた。
父親が録画をしまくるせいで実家のHDを埋め尽くして困っているという。
ケーブルテレビを契約して以来、父親は気になる映画を片っ端から録画してしまうらしい。