成人式は狭いホールで行われる予定だったが、そのホールに入る前から着物やらスーツやらを着た新成人でごった返していた。中にはキャバ嬢のような派手な着物を着た女性や、逆立てた金髪と袴を合わせた男性などもいて、中学時代の卒業式を思い出して懐かしい気持ちになった。
成人式は中学校の区分で分けられているはずだったが、ホールの外ではほとんど同級生は見かけなかった。しかし、一旦ホールに入ると中学校の名前が書いた看板が立てられていて、なるほど、一つの中学だけじゃないんだと気づいた。看板が示す区分けのほうに行くと、必然的に見覚えのある顔がなんだか増えてきた。
見覚えのある顔と言っても中学校は定期的に引きこもっていておそらく2/3くらいしか行ってない。だから、あんまり感慨は無かった。ホールの中は人がごった返していたので、そんな感慨よりも人混みから早く逃れたいと言う気持ちと、後悔するだけなのになぜ参加したんだろうと言う気持ちが強くなってきた。
幸いな事に各中学の区分けには椅子が設置されており、式が一旦始まるとそれなりにスペースを確保する事が出来た。そのおかげで一息つく事ができた。
式には自分を半ば無理やり学校に連れ出した当時の担当が現れた。普通はこういう時ありがたいと思うのだろうかと思って「ありがたいぞ、これはありがたい事なんだぞ」と自己暗示を試してみたが、ありがたさは全く湧いてこなかった。スペースを確保してくれる椅子のほうがずっとありがたいとすら感じた。
式が終わると一斉に人群れが動き始めた。椅子に座って動きが落ち着くのも待っても良かったが、一人椅子に座っていて目をつけられても嫌だった。人波に乗ることにしたが、式が始まるよりも激しい人波から早く逃れたいと言う気持ちが俄然強くなっただけだった。
人波に揉まれているとどこからか「増田くん!」と言う声がした。振り返ると中学校の頃に良くしてくれた学級委員長のAさんだった。多少は恩を感じていた分、無視するのも悪い気がしたので、Aさんの方に近づいた。Aさんはぼんやりと記憶の中にある姿と思ったよりも変わっていなくて、少し嬉しかった。
「同窓会があって、今、出席する人を集めてるの。増田くんは出席する?」とAさんが聞くので、なるほど学級委員長は5年たっても学級委員長なのだなと妙な感心をした。「行くよ」と返事したが人混みの喧騒に紛れて聞こえたかは分からない。
そうこうしているうちにAさんは別の同級生を同窓会に誘いに行った。取り残された僕は人波にもまれているうちに早くここから離れなければと言う気が強くなった。多少の抵抗したが、人波に流されるだけだったが、なんとかホールから出る事が出来た。ホールから出ると記念撮影をしてる人がまばらにいた。当然、僕には記念撮影をする相手なんて誰もいない。
どこにも属する事が出来ずにぶらぶらしていると、B君に合った。B君とは中学時代よく遊んでいて親は僕とBくんが友人だと思っているのだが、半ば手下のような扱いをされたので僕はあんまり友人とは思ってない。そんな微妙な関係のBくんとはさしあたりのない話を少しした。Bくんは同窓会がある事を知らないのか、知ってて断ったのかは定かではないが、完全にもう帰るつもりらしかった。中学の時と同様に僕も流されて完全に帰る気になってしまった。
家に帰ると親から「同窓会はどうだった?」と聞かれた。人混みに疲れた、とだけ言うともう何も言ってこなかった。
その日のうちに大学の下宿に帰った。電車の中で、Aさんに返事が聞こえていても、誰の連絡先も知らないし誰も僕の連絡先を知らないな、と気づいた。
成人式から5年たった今でも誰の連絡先も知らない。だから同窓会がどうなったのかは分からない。
けれど、こうして時々、Aさんは元気にしてると良いなと思う。
よくわかる。成人式って無駄だから廃止すべきだよね。