2020-01-08

彼女ゲームと僕と結婚

「ねえ、もっとこれからのことについて考えようよ」

ヒロコはそう言って僕の手からNintendo Switchコントローラーを奪い取った。


「これからのことって?」

僕は少し苛立ちながらも、ことを荒立てるのは得策ではないと思い、返事をする。

以前、オンライン対戦は味方に迷惑がかかるからゲームを続けたとき

「私よりゲームの味方が大事なの?」と怒らせてしまたことがある。


視界の端でゲーム画面が動いている。

顔も知らない味方たちが、動かなくなった僕を急かすように「カモン!」と連呼する。

申し訳ないが、夕食の有無に関わる問題なので許して欲しい。


結婚とかさ」

ヒロコは震えていて、そのくせ力強い声でつぶやいた。

まるで何年も掃除していない排水口の汚れのように、耳にこびりつく。


ついにこの時が来たかと、僕は身構えた。

結婚したいという気持ちはあるが、自分時間がなくならないか経済的大丈夫か、そんな不安が消えずにずっと先延ばしにしてきた。

今も、決心がつかずヒロコの本心を探ろうと質問する。

「それって、プロポーズ?」


ヒロコは一瞬なにか言いたげに口をモゴモゴとさせたが、やがて不満そうな顔で「もういい」とだけ言い放って自室に戻っていった。

何か不味いことを言っただろうか。

ヒロコとの会話は、いつも正解がわからない。


僕は急いでコントローラーを拾い上げ、絶望的な戦況のガンガゼ野外音楽堂へと意識を戻す。


前半でカウントを稼いでいたので、ギリギリのところで持ちこたえていた。

僕は謝罪意味も込めて「ナイス!」と味方に声をかけヤグラを止めに走る。


試合時間延長を告げるブザーが鳴り響き、ステージに緊張感が走る。

カウントリードしている、ヤグラを奪えば勝ちだ。


やがて味方と息を合わせて敵を全員倒し、「ナイス!」と連呼しながらヤグラを奪った。

即席の一体感快感を覚えながら、噛み続けて味のなくなったガムのような薄い勝利を噛みしめる。


ゲームは正解がある、わかりやすくていい。


結婚か……どうしようかな……)

まだ耳から離れないヒロコの言葉を思い出す。

今のままの関係も心地いいじゃないか同棲してるし結婚しても何も変わらないんじゃないか、頭の中で言い訳こだまする。


僕は答えを出せないまま、出すつもりもないまま、何度も押してきた「つづける」のボタンを押す。

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