2019-03-23

たまに思い出す人のこと。

中学同級生村田くん(仮名)という人がいた。

彼は軽度の知的障害だったのではないかと思う。

特別学級ではなく普通クラスにいたけれど、成績は下の下で、いつもヘラヘラしていた。

いつも服のそでで鼻水をぬぐうからそれが乾いてパリパリ黄色いシミになっていたり、パンツ姿で校内を走り回ったり、学校前電車踏切棒で遊んで叱られたり、そういう人だった。

自分は彼とひとこともしゃべったことはなかった。

臭そう。

話が通じなさそう。

近づいたらいきなり噛みつかれそう。

例えるなら、野生動物にはみだりに近づいてはならない。そんな感覚で遠巻きに見ていた。

喋ることのないまま中学卒業し、自分は遠くの高校に進学した。

高校一年生の夏、高校の寮から帰省したとき母親が言った。

村田くん(仮名)ってあん同級生だった?川でおぼれて亡くなったらしいよ」

そんな感じで何気なく聞いた気がする。

ふーん、と思った。

高校にあがってもあいかわらず村田くん(仮名)は友達がいないから、いつもひとりで遊んでいたらしい。

その日もひとりでタモとバケツを持って、自転車で川に遊びに行った。

そして川の底に沈んでしまった。

村田くん(仮名)の人生は途切れたんだな、と思ったのをおぼえている。

高校生の頃なんて人生無限に続くものだと、そんな気分で毎日生きていたけれど、自分と同い年の見知った人間人生が終わったことを知ってすこしびっくりした。

その頃の自分はたくさん小説を読んだり映画を見ている子供で、色々な人生があるってことは知っているつもりだったけれど、ある日突然ぶつりと途切れた彼の人生を思った時がいちばん死ぬことがとてもあっけなくて当たり前のことなんだな」と理解したように思う。

人は息ができなければすぐに死ぬんだなと。


成人してからも、ふと彼のことを思い出す。

薄汚れたTシャツと短パンサンダルを履いて汗を流しながら自転車を漕ぐ村田くん(仮名)。

タモで何を採ろうとしていたんだろうか。

何を採ったんだろうか。

残されたバケツには何が入っていたんだろうか。

暖かくなってくると、そんなどうでもいい想像をしてしまう。

一度もしゃべったことのない人なのになぁ。

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