人形か、ぬいぐるみだ。ポケットに隠して持っていけるぐらいの人形。あるときはシルバニアファミリーだったこともある。そういう感じの。
いつも遊んでいる友だちのどれかひとりを、お供として、楽しみを分けてあげるつもりで持っていった。
持っていって、映画が始まるときにこっそりポケットから取り出して。自分の隣に座らせて、最初のところだけ見せてあげる。そういうお遊びだった。
親には内緒だった。なんとなく。
知られたら怒られるような気がしていたし、「お供」に分けてあげるその行為はちょっと気恥ずかしく、親には立ち入られたくなかった。
ある日。その日の映画に、小さな白い猫のぬいぐるみを持っていった。
とても可愛いぬいぐるみで、誰かにクリスマスか何かのプレゼントにもらったものだった。タグにメロディと書いてあった(たぶん商品名か何かだったのだろう)ので名前はそのまま「メロディ」。横文字名前なんて思いつかない、メロディという単語もよくわからない年齢だった私だけれど、白猫の可愛さに見合う軽やかな音の響きにぽおっとなって、名前ごとお気に入りの子だった。その子を見ると、小さなお姫様を手にしたような気持ちになった。
けれど映画を見た帰りの電車の中で、私はその子を映画館の席に座らせたまま忘れてしまったことに気がついた。
それまで映画を楽しく見た気持ちがさあっと引いていったのを覚えている。うつむく私に、親がどうしたのって聞いてくれたことすらも覚えている。なのに。
今思えば、親に言えばよかったのに。
だけど私はとても内向的な子供で親に何かを自分から相談するという選択肢すら思い至らなかった。そもそも秘密のお遊びだったのだ。
映画館の人が拾って、大事にしてくれるんじゃないかって思ったこともあったけど、いま考えるとそんなことありえない。ずっと後悔していることのひとつ。
そのあと私は映画館に「お供」を連れて行くことはなかった。
「トイ・ストーリー3」を見るといつも思い出す。忘れられ置いていかれたオモチャの話。
私も持ち歩いていたぬいぐるみを無くしたことあるなあ 犬のぬいぐるみで名前はコロちゃんだった 無くしたものを供養するお寺とかあったらいいねえ