■「そんな無理してセックスしてくれなくていいんだよ」
彼とは職場で知り合って、1年ほど前に付き合い始めた。彼は年下だったけど私が今まで出会ったことのないような穏やかな話し方をする人で、それでいて話も面白く、ほとんど私の一目惚れでガンガン押してようやく付き合えたという感じだった。
付き合ってからも特にこれといった大きな喧嘩をすることもなく、強いて不満といえばえっちに誘うのがほとんどこちらからということぐらいで、まあつまり幸せだった。
それがある日、えっちをしようかという雰囲気になったときに、突然彼にこう言われた。
「付き合ってるからって、そんな無理してセックスしてくれなくていいんだよ」
そのときはなんでそんなことを言うのか不思議で、軽い冗談なのかと思ってこっちも軽く否定して終わった。だけどその次のえっちのときにもまた同じようなことを言われて、今度は彼がすごく食い下がってくるもので、軽く口論になった。
浮気とかを疑われてるのかと思ってそう聞いてみたけどそういうわけでもなく、とにかくあれこれ言い合ううちにわかったのは、どうやら彼は本当に私が「付き合ってるから無理にえっちに付き合ってくれてる」と思っているらしいことだった。それもずっと前から。
その場ではなんか結局うやむやになって、そのまま家に帰った。
帰ってからすごく辛くなって泣いた。
私が無理にそんなことに付き合うようなお人好しな人に見えるのか、とか。えっちのときのお互いの心が混ざり合うような感覚が大好きだったのに、そう感じてたのは自分だけだったのか、とか。あれだけ毎日好き好き言ってるのに、彼には全然届いてなかったのか、とか。
辛くて辛くて、もうわんわん泣いて。でも彼を責めても仕方ないし、彼に思いが伝わってなかったならこれから信じてもらえばいいんだってポジティブに考えることにして、その時はなんとか前向きに気持ちを持ち直した。
で、それが1ヶ月前の話。それから表面上は今まで通りやってるんだけど、だんだんと彼の言動に不安を抱くようになってきてしまった。
彼は私が何かやってあげようとすると、いいよいいよって代わりにやってくれる。今まではそれを優しさによるものだと思ってたけど、ただ単に頼りにされてないだけなんじゃないか、とか。普通に話してるだけでも、彼が笑ってるのは私にあわせてくれてるだけなんじゃないか、とか。そういうのを疑い出すと止まらなくなってくる。
彼は私に「そんな無理しなくていいんだよ」って言ったけど、今度は私が彼に「どうせ無理してるんでしょ」って言いたい気分になってきてしまった。あはは、笑えない。
だいたい、なんで今頃になってあんなこと言ったんだよ。これが付き合い始めの頃なら(まだ)いいよ。でももう1年も付き合って、なんで今頃言うんだよ。
今まであちこちデート行ったり、旅行行ったり、全部私にとっては楽しい思い出で、君にとってもそうだと思ってたのに、君はずっと私が「無理して付き合ってくれてるだけ」って思ってたのかよ。なんなんだよ、茶番みたいで虚しくなる。悔しい。悔しくてたまらない。
彼にも事情があるんだろうな、とか。彼の小さい頃の暗い話は何度か聞いたことがあって、そういうのが関係して人をうまく信じられないのかな、とか考えるけど。でもそうだとしたって悔しい。そうだとしたって、この1年間が茶番になってしまったことには変わらない。
これまでだって、事あるごとに好きだってことは言うようにしてた。でもそれが全然伝わってなかったんだとしたら、もう一体どうすればいいのかわからない。どうすれば好きだと彼に信じてもらえるのかがわからない。