幻想猫耳鉄道奇譚こと『てるみな』から派生した、現実の鉄道をメインに据えたまったり旅行記。主人公はビールが飲める年齢の女性である。
移動の時間というものが人生における最大の無駄であり、ファストトラベルもどこでもドアも実装されていない現実はクソゲーだと信じている自分のような人間にとって、この漫画の主人公(そして恐らくは作者も)の旅上手ぶりは本当に羨ましく思えてしまう。
彼女は駅弁フェアの弁当を美味しく食べたいがために特急に乗って弁当を楽しんで、富士のふもとまで行ける。何となく路面電車に乗りたくなったので荒川線に乗り、情景を楽しめる。少し通学路から外れたとこにいる猫を触りに行く感覚で、新松戸で武蔵野線を降りてわざわざ流鉄に乗る。西伊豆の安くて頑張ってる旅館で、備え付けの冷蔵庫のビールを空けて宿を応援したりもする。こういうふうに旅行を楽しむ感性があれば、人生はどれだけ素晴らしくなるのだろう。
ただ、気持ち悪いメシ漫画の氾濫を見ればよくわかるように、主人公の目線を通して描かれる情景に説得力が無いと、こういう作品は簡単に駄作に堕してしまう。そのハードルをいともやすやすと飛び越えて魅力的な世界を描いている『ぱらのま』は本当に素晴らしい。きっと自分が彼女の旅行を真似すれば、あっという間に退屈してスマホをいじってばかりになるだろう。しかし、真似をしようかなという気分にさせられてしまったのだ。