社宅の悪ガキたちにボールをぶつけられていじめられていたとき、私が「風吹け風吹け」と心の中で唱えると自然と風が吹いたものだった。
顔にボールを当てられた衝撃で鼻の感覚がツーンとおかしくなっていたが、風が合図に応じてくれると私は勇気に満ち溢れ悪ガキたちに笑顔でボールを投げ返してやることができた。
周りに味方はいない。私の頬を優しくなでる風だけが気を許せる存在だった。
風使いと自覚した私はどうやって世界を壊滅の危機から救うか考えねばならなかった。
私の力は強大すぎたようで、私が世界を呪うとテレビから台風発生のニュースが聞こえてくるのだ。
しばらくたって実際に被害が生じると私はたいへん心を痛めた。
とんでもないことをしてしまったと思った。
私は力を持つものとして振る舞わなければならなかった。そしてこの力のことを誰にも知られてはいけないと考えた。
もしこの力が公に知られれば日本政府が黙っていないだろう。私の身柄を拘束して監禁するだろう。いや、それだけでは済まない。世界中が私の力を欲して日本に攻め入ってくるかもしれないのだ。第三次世界大戦だ……
私は悪ガキたちにボールを当てられるたびに、彼らを風の力によって殺してしまうことのないように怒りを鎮める努力をした。
私は彼らがかわいそうだと思った。と同時に彼らが幸福そうだとも思った。彼らはその瞬間自分の生命にどれだけの危険が迫っているか知ることさえできないのだ。
彼らは持たざるもの……
私は孤独だったが寂しさはなかった。風が私の友達だったから。それに私は誇らしかったのかもしれない。どうして自分にはこれだけの力が与えられたのだろう。何か特別な存在なのではないか、そう考えるとワクワクした。世界を滅ぼす力を持つ私が悪ガキどもをあえて生かしておいてやっている、私はなんて慈悲深い存在なのだろう。私は自分が誇らしかった。
『東京アンダーグラウンド』という漫画に出会ってしまった。
私は愕然とした。風使いは私ただ一人のはず。私が神から授かった、まだ世界の誰も知らない能力のはずだ。
なぜだ。なぜなんだ。