八月の青い蝶を読んだ。素晴らしい。ただただ素晴らしいおねショタ小説でした。
タイトルにある通り、八月の夏真っ盛り広島を舞台にした物語。東京からつてを頼って引っ越してきた病弱な虫めでる姫と、健康だけが取り柄の腕白な広島っ子との間で紡がれる、ひと夏の淡い恋物語。
……いやあ、ね。すごいね。こんなに圧倒されたのは初めてかもしれない。なんも言えねえ。なんか言葉にすると、いま胸の中を巡っている感動なり感情が消え失せてしまいそうになる。
自然とこみ上げるものがあって、読んだ後でも涙があふれてしまうっていう珍しい体験をしました。この世界の片隅にを見終わって呆然となった人と似たような感じなのかしらん。
昨今は増田でもはてぶでもよく言及されてるあの映画だけれど、あの夏の広島を、あの夏から今に至る広島の心を描いているもう一つの名作として、この物語をいろんな人に読んでもらいたい。ぜひ。
文章は過去へ過去へと回想するし、物語よりも家族構成や、それぞれの人物の精神像なり生き方に初めから結構筆を割いているから展開としては遅く、読んだことないけど司馬遼太郎みたいな感じなのかもしれないと思った。
ただ裏返せばそれは、あの夏を生きた人々をあらんかぎり誠実に記そうとした結果でもあり、国家が一方向へ傾いている時勢にも確固とした個人が生きていた証を記そうとする意志が感じられる文体だったと思う。
戦争と平和とか、生き残ってしまった負い目や、原爆を語ることとか、非常に複雑で細分化しにくい問題と真正面から向き合っている小説だった。というか、問題という形で俎上にあげてないのか。生の声が書かれている小説だと思った。